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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
1章 あつまれ!公爵城
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第7話 俺より強い奴に、会いに行く

キドがロエルを呼び出し、二人の対決が始まる。そこへルードとラミアが通りかかり、騎士団員たちは思わぬ行動を見せる――ルードが怒鳴り、ラミアは今日も笑顔。公爵家の日常は、やっぱり一筋縄ではいかない。

「少し、よろしいですか?」


キドは背中を向けたまま、顔だけをわずかに傾けてロエルを呼んだ。

声音は低く、冗談の余地がない。


いつもの飄々とした笑みを消し、ロエルは視線を鋭くする。

無言で後を追った。


向かった先は演舞場だった。


金属の擦れる音、抑えた話し声。

騎士たちの動きが、二人の存在に気づいて一瞬だけ鈍る。


キドは立ち止まり、振り返らない。


「……で?」


ロエルは短く尋ねた。

睨みつけるような鋭い視線で、余計な軽口は一切ない。


キドは答えず、背を向けたまま珍しく羽織っていた外套を脱ぐと、無造作に放り投げた。


それだけで、ロエルの目がさらに鋭くなる。


ロエルは一歩、間合いを測るように動いた。

無意識の動作。

それを見て、キドの口元が僅かに歪む。


「……なるほど」


「何がだ」


「いえ。思ったより近いなと」


二人の距離は、踏み込めば届く。

だが、まだどちらも動かない。


キドの姿勢は低く、重心が安定している。

副団長として、数え切れない修羅場を潜ってきた男の立ち方。


一方のロエルは、隙だらけに見える。

だが、その視線は一切揺れていない。


——得体が知れない。


キドは内心で確信する。

この男は、型では測れない。


キドはゆっくり振り返り、言った。 


「俺の……俺の胃が痛い原因は……」


一拍。


「ロエル様が、半分ほど占めている——!!」


最後は、叫びだった。


「……え?」


ロエルは目を見開き、次の瞬間、口元に思わず笑みが浮かぶ。


キドはすでにシャツの袖をまくり上げていた。

露わになったのは、鍛え上げられた筋肉質な腕。


「だから一度くらい叩かせてください。真剣は使いません。ええ、そこは我慢します。木剣で。そう、木剣です。」


「嫌だよ!」


ロエルが一歩、反射的に間合いを外す。


「何言ってんだお前。本当は真剣抜きたいんだろ」


「ええ、ええ、そうですよ」


キドは一切否定しない。


「ルード様の分も含めて、俺が代表して叩かせていただきます」


「ふざけんな」


その騒ぎに、周囲の騎士たちが次々と集まってくる。


「何してる! 早く木剣を渡せ!」


副団長の声に、反射的に騎士が動く。

木剣が差し出される。


キドはそれを掴むと、ロエルを追いかけた。


「待て!」


「俺の分ないのかよ!」


ロエルは逃げながら叫ぶ。


「もー面倒くせぇな、早く渡せって!」


別の騎士がロエルにも木剣を差し出す。


「外套に傷つけんなよ」


ロエルは受け取りながら言った。


「衣装係を泣かせながら作らせてんだからな」


そう言って、ロエルも外套を脱ぐ。


——次の瞬間。


木剣とは思えない激しい打ち合いが始まった。


乾いた音が連続し、足音が床を叩く。


ロエルの剣は軽く、流れるように角度を変える。

正面から受けず、いなし、外し、次の一手へと滑るように繋げてくる。


一方、キドの剣は無駄がない。

一撃一撃が重く、最短距離で確実に間合いを詰めていく。


木剣が噛み合い、火花こそ散らないが、

空気が震えるほどの圧が生まれる。


次第に暑さに耐えきれず、二人とも袖を肘までまくり、胸元のボタンも外している。


「やるじゃないですか」


キドの目は完全に据わっていた。


「うちの騎士団、入ります? 鍛えてあげますよ」


「……俺ばっか痛ぶる気だな」


ロエルは息を切らしながらも、口角を上げる。


外套の下では目立たないが、開いたシャツの隙間から、鍛え上げられた腹筋と胸筋が覗いていた。

本人は気にも留めず、筋張った腕で額の汗を拭う。


「悪いが、俺もそれなりにやってきた」


「そのようですね」


キドは木剣を構え直す。


「役職を付けてあげてもいいくらいです」


「は。光栄だな」


笑いながらも、ロエルの目は鋭いままだ。


二人の対峙に、周囲の騎士たちは息を呑んでいた。

副団長と互角に渡り合うロエルの姿に、隠せない驚きが走る。 


息が上がり、肩が上下する。

それでも剣速は落ちない。


ロエルが一歩下がる。

それを逃さず、キドが踏み込む。


——だが、その瞬間。

ロエルの口元が、ほんのわずかに歪んだ。

予測の外から、木剣が弧を描く。


「……っ」


キドは即座に受け止めたが、手首に、確かな衝撃が走った。


一瞬、演舞場が静まり返る。

剣がぶつかった衝撃の余韻が、空気にまだ残っていた。

騎士たちは口を開けたまま動けず、二人の呼吸音だけが響く。


そこへ——


「……何の騒ぎだ」


通りかかったルードが足を止めた。


事情を聞き、視線を向ける。


「……何やってんだ、あいつら」


キドもロエルも、シャツすら脱いで対峙し続けている。


その背後から、ひょっこりとラミアが顔を出した。


「まぁ」


目を輝かせて言う。


「キド様もロエル様も、お強いんですね」


そして無自覚に続けた。


「それに、お二人ともとても逞しいんですね。ルードお兄様のようで、素敵です」


「……そうか?」


ルードが照れ隠しのように言った、その瞬間。


「自分も鍛えています」

「自分もです!」


騎士たちが次々と名乗り出て——


脱ぎ出した。


「やめろーー!!」


だが。


騎士たちは聞いていなかった。


いや、正確には——

ラミアしか見ていなかった。


「腹筋もです!」

「背中も見ますか!」

「副団長に勝てます!」


ルードの怒号が響く。


「やめろと言っている。何考えてるんだお前たちは!!」


しかしその時にはもう、

数名が完全に脱ぎ終えていた。


ラミアは目を丸くしながらも、素直に感心する。


「まぁ……皆さま、本当にお強いのですね」


——致命打。


ルードは頭を抱えた。


「違う!!そこじゃない!!」


その光景を見たキドは、顔色を失い、猛スピードでシャツを着込んだ。


ロエルもラミアの視線に気づき、無言でシャツを着る。


一方騎士たちは、ルードの言葉よりもラミアの言葉を重く受け止め、各々が筋肉を誇示するようなポーズを決め続けている。


キドは壁際を伝うように、こそこそとその場を離脱した。


ロエルは呆れた目で、それを見送った。


ルードは怒鳴り続け、

騎士たちはポーズを決めたまま輝いていた。


ラミアは拍手しそうになり、

ルードが慌ててその手をそっと下ろした。


ラミアは一人一人を丁寧に褒めていた。


——演舞場は、今日も平和だった。


*春の筋肉まつり

お読みいただき、ありがとうございます。


剣を交え、怒鳴り合い、騒ぎになる――

それでも最後に笑顔で場を和ませてしまうのが、皇女ラミアという存在です。


そんな彼女に振り回されながら、今日も公爵家は平和です。

次回も、賑やかな日常をお楽しみいただけたら嬉しいです。

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