表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
2章 皇宮へGO
25/25

第25話 我ら、討ち入りと相成る

帰省=修羅場。重苦しい政治の話のはずが、なぜか恋人芝居と口付け命令(未遂)。笑えないのに笑える、侯爵家決裂回。

馬車が侯爵家へ近づくと、キドの肩はすくみ、心臓は早鐘のように打つ。

「……あぁ、これからが本番の磔気分……」


ロエルは窓の外を見て屈託なく笑う。

「ハハ、ここからが本番だな」


キドは小さく呻き、思わず目をつむる。


馬車は静かに侯爵家の門をくぐり、圧倒的な威厳を放つ城構えが姿を現した。重厚な門扉、荘厳な塔、歴史を感じさせる壁面――キドは思わず息を呑む。


屋敷に通されると、年代物の調度品や価値の高いであろう絵画が並び、緊張感が一層高まる。


ロエルは実家に戻っただけとあって、表情ひとつ変えず、颯爽と歩を進める。


キドは「そんなに早く行かないで……」と言わんばかりにロエルの裾を軽く掴み、少し引き留める。


ロエルは無言のまま冷たい視線をキドに向け、すぐに前を向き歩き続ける。


キドは心の中で「約束が違う……」と叫びつつも、表情を引き締め、毅然として後に続く。


やがて応接室に到着する。

「入りなさい」

侯爵の声とともに中の扉が開かれる。


ロエルは笑みを一切見せず、冷たく鋭い表情のまま応接室へ踏み出す。

キドは一歩遅れてロエルの裾を握り、手の硬直を抑えながら、副団長としての立ち振る舞いを意識して後に続く。



「さて、もう一度お前の口から説明しなさい。」


「言った通り。俺はキドを選んだ。」


ロエルは舞踏会の時の緊張も、普段の飄々さも消え、淡々と冷静な表情を保っていた。


キドは落ち着こうと出された茶に手を伸ばしたが、手が震え茶器がカタカタと音を立てる。ロエルは横目でそれを冷たく一瞥した。


ザグル侯爵は、低く響く重厚な声で言う。

「ハハ、毒など入れていない。安心して飲みなさい」


「は、はい、ありがとうございます」


侯爵の存在感は圧倒的で、室内の空気を凍らせる。

「こんな粗末なやり方も、自らの手を汚す必要もない」


キドの喉がヒュ、と音を立てる。

「殺るなら、な」

侯爵の視線は鋭く、ロエルの冷徹ささえ凌ぐ重みを帯びていた。


「所で君は公爵家で副団長をしているそうだな」


「は、はい」


「それで務まるのか? 公爵家副団長、とやらは」


キドの目が一瞬鋭くなるが、口を開く前にロエルが手を前に出し制止する。


「親父、キドは今日、副団長としてではなく、俺の恋人としてここに来た」


キドは青ざめ、心の中で叫ぶ。

(無理だ……この殺伐とした空気で、ロエル様があの冷徹な顔で恋人だなんて!)


「緊張して赤くなっているだけだ」

ロエルは続ける。


「……青いぞ」

侯爵はキドの顔を一瞥したあと、視線をそらす。


「お前の趣向に興味はない。だが、それに何の価値がある?」


「皇女を我が主中に納めることは容易い。そうなればお前は皇女ラミアの夫として、我が侯爵家は政治の中枢に入り込める。それを棒に振るとは、何を考えている」


侯爵の声は怒りを帯びつつも、落ち着きと威圧感に満ちて室内に響いた。

キドは目を見開き、息を飲む。


侯爵はゆっくりと歩きながら言った。


「皇太子と第二王子が争えば、貴族は必ず割れる。

その隙に誰が上へ出るか――考えるまでもない話だ」


視線がロエルに突き刺さる。


「お前が皇帝から不穏分子の廃絶を任された理由もな」


キドの胸がざわついた。


理解するより先に、言葉の重さだけがのしかかった。

キドは、息を呑むことしかできなかった。


「代々、我が家門は皇帝に警戒されている。だが、それで良かった。お前がそつなくこなし、皇室に恩を売れれば、それで十分。それで皇室を脅し、皇女を手にできれば、不穏分子をけしかけた甲斐もあったわけだ」


キドは衝撃で体が固まる。

(……ルード様が言っていたのは、こういう事か……?)


ロエルは冷たい笑みを浮かべる。

「…いいのか? 公爵家副団長の前でその発言をして。公爵家当主ルードは皇女の従兄妹で、皇后の甥だぞ?」


侯爵は動じず、視線を一層鋭くした。

「ふん、証拠は何もない。お前がその男を懇意にしている、という証拠もな」


「証明が必要か?」


「そうだな、出来るならしてみろ」


ロエルはキドに向き直った。

「キド、俺と口付けろ」


「!? 嫌ですよ!!」


「フッ、くだらん茶番を。その男をこちらに引き込め。侯爵家にいれば多少役にも立つだろう」


ロエルはザグル侯爵に向き直り真剣に言った。

「キドは恥ずかしがり屋なんだ」


「?! ロエル様、もう無理ですって。いくら何でも無茶ですよ」


「わかった」

ロエルはキドの両肩に両手を置く。

「キド、俺の靴に口付けろ」


「はぁー?! あんた何言ってんだ!」


「いつもしてるだろう。親父がそうすれば認めると言っている」


「言ってないでしょう!!」

「言ってないぞ!」


二人の声が重なる。


侯爵は大きくため息をつき、頭に手を置く。

「お前は今まで築いて来たこの侯爵家に泥を塗るつもりか。舞踏会での事と言い、いつまで評価を落とし続けるつもりだ」


ロエルは鼻で笑い、軽く馬鹿にした表情を侯爵に向けた。


「評判良いとでも思ってたのか? この侯爵家が。汚い方法で他家を蹴落とし、卑怯なやり方で高位貴族を脅し、手に入れた爵位が尊い、とでも?」


「……いずれ化けの皮は剥がれる」


侯爵は、わずかに目を細めた。


「……くだらん」


低く抑えた声が、室内の空気を凍らせる。


「その程度の芝居で、この私を動かせると思ったか」


ロエルの口元に、薄い笑みが浮かぶ。


「お前の考えも、目的も――最初から見えている」


一歩、踏み出す。


「だが――」


「それでも、私の盤上に乗らぬ駒に、居場所はない」


視線が鋭く突き刺さる。


「今日この時をもって、お前は侯爵家の人間ではない」


「名も、庇護も、後ろ盾も、すべて捨てろ」


一拍。


「生き残れると思うな」


「だが、もし生き延びられたなら――」


「その時は、駒として拾い直してやる」


ロエルは一瞬、言葉を失い、そして楽しげに笑った。


「……相変わらずだな」


「上等だ」


踵を返し、キドを見る。


「行こうか」


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ