第23話 お父さん、娘さんを僕に下さい
ロエルが、珍しく真剣な顔で切り出した。……はずだったのだが。何故かルードがふざけ、ロエルもついでにふざけ、キドがキレる。これは、どうしても噛み合わない三人の会話劇である。
皇宮近辺に構える公爵家の別邸へと戻った一同は、
そのまま執務室へと移動した。
背筋を伸ばし、両膝の上にそれぞれ両手を置く。
まるで正式な謁見の作法のようなその姿に、ルードは険しい表情を浮かべ、キドは目を見開いた。
ロエルはルードを見上げ、真剣な眼差しで言う。
「ルード」
低く、落ち着いた声。
「俺に、キドを下さい」
「――はぁ?」
キドの声が、思い切り裏返った。
「一体何の話……っ」
「お前にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」
ルードは眉間に深く皺を寄せ、ぴしゃりと言い放つ。
「……あんたも何言ってんだ!!」
キドは無理のある展開に、つい敬語を忘れる。
「そんな事、一言も言われてないだろ!」
「ラミアの時の予行練習をしようかと思ってな」
こほん、と咳払いをして、どこか照れたようにルードが言う。
「そんな日は来ないでしょう。そこらの兄と妹じゃないんですよ?
それに独身なのに父親気取りって……結婚もまだしてないのに、所帯染みないでください」
「いや、俺も一度くらいやってみても良いかなって」
真顔で、ロエル。
「俺を巻き込まないでください。本当に二度とその機会はなくなりますよ!?」
ルードは一瞬で表情を切り替え、腕を組む。
「真面目な話、それは構わないが……ザグル侯爵はそれで大丈夫なのか?」
「ああ。多分な」
「構わないってどういう事ですか!?」
キドは声を荒げる。
「ルード様、俺を捨てるんですか?」
「……キド。気持ち悪い聞き方するな」
ルードの顔が、はっきりと歪んだ。
「ハハっ、三角関係みたいだね」
ロエルが楽しそうに笑う。
「ちょっと!今までお二人とも茶番をやってて、俺だけなんでそんな対応なんですか!?」
「キド、落ち着け。一日だけだ」
ロエルは真剣な表情で、まっすぐにキドを見る。
「一日だけ、侯爵家に来てほしい。俺の恋人として」
「嫌ですよ!!」
即答だった。
「何が悲しくて男の恋人役をやらないといけないんですか?
それに俺は彼女役ですか?彼氏役ですか?
どちらにしても嫌です!」
ロエルは少し考えるように視線を上げ、
「あー……それはキドが彼女かなぁ……」
「なんでですか!?」
キドが即座に食いつく。
「ロエル様より俺の方が男らしいでしょう!」
「でも中身はキドの方が乙女だろ?」
平然と返すロエル。
「俺にはその感覚はない。結局、俺の方が男らしくないか?」
「キーッ!!絶対嫌です!!」
キドは床を踏み鳴らす勢いで叫ぶ。
「どうせならもっと俺を煽ててその気にさせるべきでしょう!?
絶対やらない!!」
そこへ、ルードが助け舟を出す。
「キド。褒美を出す。だからロエルを助けてやれ」
「褒美……給金ですか?」
キドは鼻で笑う。
「俺を見くびらないでください。金なんかで俺は動かないですよ」
「いや、騎士団長だ」
きっぱりとルード。
「俺もいつまでも兼任は出来ない。
騎士団長の座を、お前に託す」
キドの動きが、ぴたりと止まる。
「……」
一瞬、心が大きく揺れる。
――が。
「……しかし、そうまでして何故俺に?
そこらの令嬢に頼めば良いのでは?」
ロエルは視線を逸らし、少し間を置いて答えた。
「……親父は、その……そこらの令嬢の家門を潰すだろう。平然とな」
キドの顔色が、さっと青くなる。
「え……俺も潰されません……?」
「いや、キドは公爵家の副団長だ。
親父も高位貴族の家門に、簡単には手を出さないはずだ」
「全部、たらればの話じゃないですか!!」
キドは頭を抱える。
「嫌です!!ロエル様のお父上、なんか怖いし、行きたくないです!」
ルードが低く言う。
「キド。これは、ラミアを守る為でもある。
万が一の時には、俺が皇帝に願い出てみる」
「そんなの、ただの神頼みじゃないですか!!」
キドは悲鳴のように叫ぶ。
「俺はただの男好きだと思われて、騎士団で怯えられながら一生を過ごすんですよ!
あまりに代償が大きすぎる!!」
「それは俺も同じだ」
ロエルは静かに言い、キドの肩にそっと手を置いた。
「一人じゃないぞ、キド」
「それはあんたの選択だろ!!」
キドは肩を振りほどく。
「俺に関係ないだろ!」
「……五発くらいなら殴らせてやる」
ロエルは覚悟を決めたように言う。
「だから頼む」
「……五発……も、いいんですか?」
キドの目が、きらりと輝いた。
「決まりだな」
ルードが即断する。
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