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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
2章 皇宮へGO
16/21

第16話 敵は社交界にあり

舞踏会について三人はゆるくやり取りを交わす。胃を痛めるのは、もちろんキドだけ──じゃない?ラミアとロエルがそれぞれ出発し、物語は少しずつ動きだす。

応接室・夜

三人は酒を軽く口にしていた。


「キドも行くんだろ?」

飄々とロエルが訊く。


「ええ、まぁ。ですが身分的に控えざるを得ませんので、逆に気楽ではありますね」

キドは肩をすくめる。


ルードは先日のロエルのわずかな反応を見逃していなかった。

「……ロエル、行きたくないのか?」


「えぇー?! てっきり皇女殿下の手を我先に取り、『貴女の最初のパートナーになる栄誉を私にください!』と、片目を閉じて礼をしながら引くくらい甘く言うのかと思ったんですが!」

キドが大げさに腕を振る。


「……キド、お前、令嬢向けの本でも読んでるのか?」

ルードが苦笑混じりに呆れる。


「ハハハ、乙女だなー、キド」

ロエルは笑いながらも、顔が徐々に青ざめていく。

「ハハハ……キド、頼むから胃が痛むことを言わないでくれ」


「えっ?どうしたんですか? ロエル様、顔が青いです。大丈夫ですか? 胃痛が?」


「…お前なんでそんなに楽しそうなんだ?」


キドは笑顔をロエルに向け、キラキラと目を輝かせながら心配の言葉を述べていた。


「いやー、ハハハっ、まさか俺が笑顔なんてハハ。そうですか、ロエル様胃痛が。ブハハハハ」


「……」

ロエルはイラッとしたが、無言でキドを睨むに留めた。


顔が青いロエルと、輝く笑顔のキド。

「珍しいものを見ているな」

ルードはしばらくその様子を眺めていた。



後日、公爵家正門前

既に皇室からの馬車が到着していた。


「では、お兄様、行ってまいりますね。」

公爵城玄関前でラミアがルードを振り返る。


「あぁ。気をつけてな」


「ロエル様とキド様も祝賀会で」


「うん、祝賀会で会おうね。」

ロエルは笑顔でひらひら手を振る。


「はい、是非。お気をつけて」

頭を下げるキド。


ラミアは離れて控えている皇室の者に向かって歩き出す。


横にいたキドは、思わず声を漏らした。

「え?」

しかし体は固まり、動けない。


ロエルは数歩歩き、後ろからラミアの腕を掴み、自らに引き寄せた。


「ロエル様?」

ラミアは少し戸惑ったように振り返る。

ロエルの目には、普段はない揺れがあった。

躊躇するように一瞬だけ視線を外す。


「ちょっと、何を……」

焦って追いかけようとしたキドの肩に、ルードが手を置き制止する。


「え、ルード様?」

キドは驚きの表情でルードを見た。

ルードは険しい顔をしながらも、ロエルとラミアを見つめ続ける。


ロエルはラミアの後ろから耳元にそっと口を寄せる。

低く、冷静さの奥に潜む感情を抑えた声で。

「…気をつけてね。」

フッと短く笑い、ラミアを離す。


「はい。ロエル様も侯爵家にお戻りの道中、お気をつけ下さい」


「ありがとう」

またいつもの飄々としたロエルに戻り、手を振った。


ラミアを乗せた馬車が出発し、姿が見えなくなる。


ルードがロエルに近づく。

ロエルは背中を向けたまま低い声で言った。

「ルード、ラミアを護ってやれ」


「言われなくても。…で、お前はどうするつもりだ?」

ルードは淡々と問う。


ロエルは振り返り、珍しく気弱な笑顔を向ける。

「さぁな。」


キドはぽかんと目を見開き、混乱を隠せず首を傾げた。

「え……え? 今の……どういう展開ですか……?」



公爵家・応接室

ラミアとロエルが出発して、屋敷内は再び静寂に包まれた。

仕立て屋が出入りする以外、普段通りの落ち着きを取り戻す。


「最近、静かすぎますねー」

ため息混じりに呟くキド。

ルードは書類に目を落としたまま横目で彼を見やる。


「胃痛の種であるラミアとロエルがいないのは、お前にとってむしろ好都合じゃないのか?」


「いえ、もうお二人共いるのが当たり前になっていたので、胃痛がないことに胃がびっくりして胃痛を引き起こします。」


「……お前、何を言ってるんだ」

ルードは呆れ顔でキドを見る。


「静かすぎて、まるで嵐の前の静寂というか……」


ルードは真面目な顔でキドを見据える。

「キド、お前は社交界に出るのは初めてだな。俺も幼い頃しか経験がないが、社交界は戦場だと思え」


「戦場…ですか?」

キドの目が丸くなる。


「ああ、武器は言葉、鎧はドレスや正装だ。ちょっとした失言で勝敗が決まり、地雷を踏めば火種になる」


キドの顔は見る間に青ざめていく。

「そんなに恐ろしい場所なんですか……? もっと、キラキラ華やかで優雅な空間かと……。胃が……胃が……」


ルードは肩をすくめ、淡々と続ける。

「何も起こらなければいいが、独身の令息どもからラミアを護ることも忘れるな」


「言葉の戦より、そっちのほうがマシかもしれません……」

キドは小さくため息をつき、机を押さえる。


ルードは微かに笑みを浮かべる。

「まあ、戦場の準備はお前が思っている以上に大変だぞ」


キドは目を見開き、少し震えた声で答える。

「ええ、もう既に胃が戦っています! しかも防御力ゼロです!」


キドは机を押さえたまま、目をぱちくりさせる。

「…しかし、戦場と言われても、まだ弾丸も弓もないですし、まず何から手を付ければ…」


「いや、弾丸はいらん」

ルードが淡々と答える。

「まずは情報収集だ。社交界で何が起きているか、誰が怪しいか、誰が味方か。心構えも重要だ」


キドは考え込む。

「…なるほど。では、社交界の偵察…胃に刺激は最小限に抑えつつ…」

小声で呟き、机の上に置いてある書類を握りしめる。


ルードは少し目を細める。

「…それにしても、お前、まだラミアの存在を“胃痛の種”呼ばわりするか」

「はい! 胃が悲鳴を上げるのですから、ある意味正確な表現です!」

キドは胸を張る。


ルードはため息混じりに微笑む。

「…お前も、そのうち“胃痛を制する者は社交界を制す”と学ぶ日が来るかもしれんな」


キドは大きく頷き、目を輝かせる。

「はい! その日まで防御力ゼロの胃を鍛え続けます!」


ルードは書類に目を落とす。

「…それよりも、今日のうちにラミアの宮廷での動きを追える手は打っておけ。独身令息たちが静かに忍び寄る前に」


キドはすぐにメモを取り出す。

「了解です! …あ、胃が戦ってますので、メモの字も震えてます!」


ルードは軽く頭を振る。

「…その胃、ほんとに戦場向きか?」


キドは真剣な顔で頷く。

「最前線に立たせます。胃痛は副官の勲章ですから!」


ルードは小さく笑い、書類に視線を戻す。

「…さて、俺も少し休むか…」

部屋の空気が一瞬緩み、次の嵐への序章が静かに始まる気配を残した。

お読みいただきありがとうございます。

次回は皇宮に行きます。

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