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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
1章 あつまれ!公爵城
10/20

第10話 だって女の子だもん!

休憩室で女官たちが本気の格闘戦!原因はまさかの皇女ラミア!?ルードは顔を引き攣らせ、キドは青ざめ、ロエルは肩を震わせて笑いを堪える。執務室には、目に見えぬ色とりどりの花が咲いた。

休憩室


休憩室には、湯気の立つ茶と甘い菓子の香りが満ちていた。

女官と女性使用人たちは円になり、自然と声が弾んでいる。


「ルード様って、本当に威厳がおありよね」

「ええ。頼りがいがあって、何より公爵家らしい気品があるわ」

「皇女殿下を、いつも温かく見守っていらして……素敵」


一人がうっとりとため息をつく。


「気品といえば、ロエル様もよ」

「侯爵家のご出身で、柔らかい笑顔に優雅な振る舞い」

「この前なんて、演舞場で剣を……キド様にも引けを取らなかったそうよ」


だが、別の声が少しだけトーンを落とす。


「……でも、ロエル様って、怖いわよね」

「ええ。笑顔なのに、どこか」

「ふとした瞬間の目が、ぞっとするの


ひそひそと笑いが漏れる。


「剣術なら、やっぱりキド様よ」

「副団長として騎士の前に立つお姿、冷酷で沈着で……静かにお強い」

「それに公爵家の業務を全て把握して、指示も的確で……」


一拍。


「……でも」

「胃が弱くて」

「たまに暴走して叫ばれるのよね……」


くすくす、と笑いが広がった、その時。


ふと空気が変わった。


視線を上げると、

休憩室の入り口に、皇女殿下が立っていた。


一瞬、時間が止まる。


「っ……!」

「で、殿下……!?」

「も、申し訳ございません!」


慌てて頭を下げる女性達。


だがラミアは、にこにこと柔らかく微笑んだ。


「どうして?」

「続けてください」


一同が顔を上げる。


「皆様が楽しそうにお話されているの、とても微笑ましいです」

「少女のようで……可愛らしいわ」


その一言で、女性達の頬が一斉に染まった。


「わ、私達が……?」

「そ、そんな……」


ラミアは微笑んだまま、楽しそうに続ける。


「私まで、つられて笑顔になってしまいました」


休憩室は、完全に花が咲いた空気になっていた。



執務室


そこへ、慌てた足音。


「た、大変です!」


男性使用人が執務室に駆け込んできた。


「どうした?」

ルードが即座に顔を上げる。


「何かあったのか?」

キドも鋭く目を細めた。


「お、女達が……揉めています!」


「原因は?」

「わざわざ言いに来るほどの状況なのか?」

「女官長は何をしている?」


畳みかけるルード。


「……キド、見てこい」


「ハッ」


この時ばかりは、

キドの胃は不思議と静かだった。

(俺、無関係だな)と確信している。



休憩室(再び)


「お前達! 一体何をしている!」


キドの冷酷な声が、狭い室内を切り裂いた。


だが。


女性達は一瞬ひるんだものの、

次の瞬間には、再び火花が散った。


この公爵家に仕える使用人は、

騎士や男性使用人の縁者も多く、

そして——ここで働くうちに、否応なく鍛えられていく。


誰かが胸ぐらを掴めば、

別の誰かがその腕を払う。


低い姿勢から鋭い蹴りが飛び、

それを読んだ相手が床を蹴って距離を取る。


拳が交錯し、

手首を取られ、

体勢を崩した者が、勢いのまま投げられた。


机がきしみ、椅子が倒れ、

茶器が転がり、甘い香りの中に土埃が混じる。


狭い休憩室で、

もはや遠慮も体裁もない、

本気の格闘戦が繰り広げられていた。


そこへ、ひょいと顔を出すロエル。


「わー……すごいね」

「公爵家って、女の人も戦うんだねー」


ケラケラと笑っている。


——が。


この日のキドは違った。


怒りで顔を歪め、一歩前に出る。


「いい加減にしろ!!」

「今すぐ、やめろ!」


副団長の本気の気迫。


女性達は、ぴたりと動きを止めた。



執務室(事情聴取)


「で」

「原因は?」


ルードの低い声。


「……職務の配置に、少し……」


「希望があれば、申請しろと言っているだろう」


「……集中してしまいまして……」


キドはルードの脇で、腕を組み、無言で状況を見ている。

ロエルは椅子に座り、相変わらずニコニコ。


「どこに?」


「……皇女殿下の所に……」


その瞬間、

ルードの眉間の皺が、わずかに緩んだ。


「……何故だ?」


女官長が一歩前に出る。


「本日、殿下が休憩室で私達の様子をご覧になり」

「“少女のようで可愛らしい”と……」


母親に近い年齢の女官長が、

少女のように頬を染めて言った。


ルードの顔が、引きつる。


キドは天を仰ぐ。


ロエルは、肩を震わせて笑いを堪えている。


女官長は続けた。


「殿下が一番、肩の力を抜かれ」

「ゆっくりお話でき」

「なおかつ、直接お触れすることが許される……」


一拍。


「……湯殿に、希望が集中いたしまして」


「湯……?」


ルードの顔は引きつったまま、

頬がぴくぴくと痙攣している。


その横で、ロエルは何も言わず立ち上がり、

静かに執務室を出て行った。


ルードは、その横顔を見て——

ロエルの耳が、わずかに赤いことに気付いた。


キドは天を仰いだまま、

今度はゆっくりと青くなった。


女官長を含め、女性達は、

桜色に頬を染めたままだった。


執務室には、目に見えぬ花が咲いていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


皇女本人は平常運転、

周囲だけが勝手に大混乱――

いつもの公爵城の日常です。


キドの胃とルードの精神力に、

心からのエールを。


次回も、よろしくお願いいたします。

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