内部崩壊
最初に、
声を上げたのは
若い女だった。
「……違う」
誰も、
すぐには反応しない。
彼女は、
拳を握りしめ、
続けた。
「私たち、
“悪人”を
相手にするって
言ってた」
「なのに今、
誰を
狙ってるの?」
ざわめき。
誰かが言う。
「綺麗事だ」
「覚悟が
足りない」
女は、
想槍を見る。
そして、
震える声で言った。
「……私」
「最初に
相殺を
信じたのは」
「怖かったから」
沈黙。
「誰かが
代わりに
やってくれるなら、
考えなくて
済むと思った」
その言葉が、
刃のように
刺さった。
⸻
連鎖
別の男が、
口を開く。
「……俺もだ」
「“均衡”とか、
“正義”とか」
「本当は、
どうでもよかった」
「ただ、
納得したかった」
一人、
また一人。
声が、
増えていく。
「被害者の
遺族の声、
聞いたことあるか?」
「……ない」
「俺も」
「聞いたら、
止まれなく
なるからな」
リーダー格の男が、
怒鳴る。
「黙れ!」
「今さら
何を――」
想槍が、
静かに言う。
「今さらだからこそ、
止まれる」
⸻
ひび割れる論理
「相殺は、
“悪”を
消す仕組みじゃない」
想槍は、
一人一人を見る。
「“考える責任”を
消す仕組みです」
誰も、
否定できない。
「テロを
一度でも
やったら」
「次は、
やらない理由を
探す側になる」
「それはもう、
被害者じゃない」
「加害者です」
誰かが、
泣き出した。
嗚咽。
手で、
顔を覆う。
⸻
決壊
リーダーの男が、
一歩下がる。
「……違う」
「俺たちは――」
言葉が、
続かない。
彼自身、
分かっていた。
ここで引けば、
自分は
“ただの人”に戻る。
だが、
進めば――
戻れない。
想槍が、
最後に言う。
「選んでください」
「相殺を
続けるか」
「終わらせるか」
「どちらを
選んでも」
「あなたたちは、
あなたたちだ」
⸻
崩壊の音
誰かが、
マスクを外した。
次に、
また一人。
床に、
落ちる。
マスク。
理論。
怒り。
リーダー格の男は、
膝をついた。
「……もう」
「分からない」
外のサイレンが、
近づく。
だが、
誰も逃げない。
誰も、
武器に
手を伸ばさない。
相殺派は、
ここで終わった。
⸻
想槍剛
想槍は、
深く息を吐く。
足が、
少し震えていた。
だが、
倒れない。
彼は、
ただの
相談員だった。
それでも――
言葉で、
爆弾を止めた。
外から、
拡声器の声。
「武器を
床に置け!」
古谷直也の声だった。
想槍は、
静かに
扉の方を見る。
もう、
逃げない。
もう、
数えない。




