相殺派、テロへ
犯行声明は、
事件の三分前に投稿された。
我々は、
国が見捨てた被害者の
代行者である
相殺は、
私刑ではない
均衡だ
署名はない。
だが、
使われている言葉は、
明らかに“中核”のものだった。
感情的ではない。
冷静で、
論理的で、
危険だった。
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第一の標的
地方都市。
再開発地区。
建設中の
公共施設。
表向きは、
市民センター。
裏では――
相殺否定派の
シンポジウム会場になる
予定だった。
爆発は、
夜明け前。
死者は、
出なかった。
だが――
狙っていない爆破
という事実が、
何より恐ろしい。
「警告だ」
現場に残された
横断幕。
相殺を
否定する場を
消す
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第二の標的 ――“象徴”
次は、
人だった。
テレビに出ていた
社会学者。
相殺思想を
「集団的責任転嫁」
と断じた人物。
自宅前で、
爆竹と煙幕。
怪我は軽い。
だが、
壁に書かれた文字。
次は
本物
警察は、
即座に
テロ対策本部を
設置した。
だが――
遅れていた。
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中核の姿
地下。
廃ビル。
相殺派の中核メンバーは、
円卓を囲んでいた。
年齢も、
職業も、
ばらばら。
共通しているのは、
**「裁かれなかった痛み」**だけ。
リーダー格の男が、
静かに言う。
「会見で、
否定された」
「我々の
“意味”を」
誰かが、
吐き捨てる。
「じゃあ、
見せるしかない」
「否定できない形で」
別の女が言う。
「相殺は、
選択だと
分からせる」
「選ばせればいい」
彼らは、
もう“悪人”を
探していなかった。
世界そのものを
試し始めていた。
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想槍剛 ――理解してしまう
速報が、
流れる。
【相殺派とみられる集団
連続威力業務妨害】
想槍は、
画面を見つめたまま、
呟く。
「……同じだ」
相殺派も。
組織も。
「人を救うため」と
言いながら、
人を数にしている。
それが、
耐えられなかった。
携帯が鳴る。
古谷直也。
『もう、
止められない』
『警察では
追いつかない』
『君しか、
彼らの言葉を
折れない』
想槍は、
一瞬、黙る。
「……彼らは」
「被害者です」
『ああ』
古谷は、
否定しない。
『だからこそ、
危険だ』
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第三の標的 ――予告
その夜。
動画が、
投稿される。
顔は、
全員マスク。
声は、
加工されている。
だが、
言葉は、
はっきりしていた。
次は、
“相殺を生んだ場所”だ
否定も、
逃げも、
無意味だ
相殺は、
我々の手にある
コメント欄は、
地獄だった。
「やれ」
「本物の正義だ」
「止めるな」
だが、
一つだけ
違うコメントが、
流れる。
相殺は、
もう十分だ
すぐに、
叩き潰される。
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決断の前夜
想槍は、
静かに立ち上がった。
もう、
逃げ場はない。
語るだけでも、
足りない。
止めるだけでも、
足りない。
彼らの“論理”を、
正面から壊さなければならない。
命を使わずに。
数を使わずに。
声で。
「……行きます」
古谷に、
そう告げる。
『どこへ』
想槍は、
答えた。
「相殺派の
“中核”へ」
「彼らが
テロになる前の
最後の場所へ」
電話の向こうで、
古谷が息を飲む。
『……戻れなくなる』
「最初から、
戻る場所なんて
ありませんでした」
想槍剛は、
歩き出す。
これは、
正義の物語じゃない。
“正義を降ろさせる”
物語だ。




