最悪の結果
事故が起きたのは、
深夜二時過ぎだった。
【市道で単独事故】
【運転手、死亡】
【飲酒の可能性あり】
ニュースは、
それ以上を語らない。
想槍剛は、
画面を見つめたまま、
動けずにいた。
死んだのは――
危険運転の常習犯。
詐欺の実行役ではない。
相殺は、
半分だけ成立した。
小谷とおるの声が、
背後から聞こえる。
「……飲み屋に来なかった」
「予定より早く、
一人で車に乗った」
「感情が荒れてた。
ブレーキ痕、なし」
想槍の胸に、
重たいものが沈む。
「……僕が、
止めたからですか」
小谷は、
しばらく黙っていた。
「直接の原因は、
そいつ自身だ」
「だが――
因果の線は、
お前を通ってる」
古谷直也が、
ゆっくりと口を開いた。
「これが、
現実だ」
責める声ではなかった。
だが、
救いもなかった。
「完全な相殺なら、
互いに潰れていた」
「だが、
君が介入したことで、
バランスが崩れた」
想槍は、
拳を強く握った。
「……それでも」
声が、
かすれる。
「詐欺の実行役は、
生きています」
古谷は、
頷いた。
「生きている」
「そして――
今も、
どこかで電話をかけている」
モニターに、
新しい映像が映る。
詐欺の実行役が、
別の部屋で、
ヘッドセットを付けている姿。
何も、
変わっていない。
想槍の中で、
何かが音を立てて崩れた。
――止めたはずだった。
――救ったはずだった。
だが、
誰かは死に、
誰かは続けている。
最悪の形だ。
田村しずくが、
震える声で言った。
「……これって」
「一番、
意味のない結果じゃ
ないですか」
誰も、
否定できなかった。
古谷が、
想槍をまっすぐ見る。
「君は、
正しかったかもしれない」
「だが、
組織としては、
失敗だ」
想槍は、
目を閉じた。
あの遺族の声が、
頭をよぎる。
「止めてほしいです」
止められていない。
むしろ――
新しい地獄を作った。
「……責任は、
僕が取ります」
想槍は、
そう言った。
古谷は、
首を横に振る。
「もう、
君には
取らせない」
その言葉の意味を、
想槍は、
すぐには理解できなかった。
「想槍剛」
古谷の声が、
低くなる。
「君は、
組織のルールを破った」
「意図はどうあれ、
結果として、
一人を死なせ、
一人を野放しにした」
沈黙。
「――隔離対象だ」
その言葉が、
部屋に落ちた。
田村が、
息を呑む。
小谷は、
目を伏せたまま、
何も言わない。
想槍は、
ゆっくりと顔を上げた。
「……それでも」
「相殺が、
正解だとは
思えません」
古谷は、
一瞬だけ、
目を細めた。
「だからこそ、
君は危険なんだ」
その夜、
想槍剛は、
一つ理解した。
この組織が
本当に恐れているのは――
失敗ではない。
相殺以外の答えを、
本気で探そうとする人間だ。
そしてその代償は、
これから、
必ず払わされる。




