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相殺式  作者: 冴白
10/28

割り切れない対象

会議室の空気が、

前回とは明らかに違っていた。


モニターには、

ニュース映像が静止画で映っている。


【高齢者を狙った特殊詐欺事件】

【被害総額 約2,300万円】

【被害者の一人、後日自殺】


想槍剛は、

視線を逸らせなかった。


「……亡くなっている?」


田村しずくが、

小さく頷く。


「三十八歳。

 父親と二人暮らし女性です」


「親の退職金を、

 ほぼ全額騙し取られた」


小谷とおるが、

淡々と補足する。


「詐欺グループの末端実行役は、

 すでに二人、特定済み」


画面が切り替わる。


若い男。

二十代前半。

どこにでもいそうな顔。


「……ただのガキじゃないか」


想槍の口から、

思わず言葉が漏れた。


「だが、

 “かけ子”だ」


古谷直也が言う。


「自覚はある。

 被害者が壊れることも、

 承知の上だ」


さらに画面が切り替わる。


今度は、

別の事件。


【交通事故で一家死亡】

【原因:危険運転】


「こっちは、

 常習的な煽り運転」


「飲酒歴あり。

 免停中の無免許」


田村が、

声を落とす。


「事故で亡くなったのは、

 両親と、

 小学生の子ども二人」


想槍の中で、

何かが、

はっきりと崩れた。


「……待ってください」


声が、

震えた。


「この二人を、

 相殺させるんですか」


古谷は、

頷いた。


「どちらも、

 社会にとって明確な加害者だ」


「だが、

 これ以上の被害を出す前に、

 終わらせる必要がある」


「終わらせる……?」


想槍は、

言葉を反芻する。


「詐欺の実行役と、

 危険運転の常習犯」


「互いに、

 被害者を生み続ける存在だ」


小谷が、

モニターを操作する。


「接点は、

 ある」


「闇バイト繋がりの集まり。

 地方の飲み屋だ」


「酔わせて、

 車に乗せる」


「事故る確率は――

 高い」


想槍は、

立ち上がっていた。


「それって……

 殺すのと、

 何が違うんですか」


部屋が、

凍りつく。


古谷は、

ゆっくりと想槍を見る。


「違う」


「我々は、

 引き金を引かない」


「選択肢を、

 奪っていない」


「……でも!」


想槍の声が、

強くなる。


「詐欺の被害者は、

 もう死んでる!」


「事故の被害者は、

 戻らない!」


「それなのに――

 これ以上、

 誰かを消す必要があるんですか!」


田村が、

苦しそうに目を伏せる。


小谷は、

何も言わない。


古谷だけが、

はっきりと言った。


「ある」


「感情で止めた結果、

 次に死ぬのは、

 無関係な人間だ」


「それでも、

 君は止めたいか」


想槍は、

答えられなかった。


頭に浮かぶのは、

あの奥さんの声。


「もし、

 誰かが止めてくれていたら」


――止めるとは、

何だ。


殺さずに、

止める道はないのか。


沈黙の中で、

古谷が告げる。


「この案件、

 君に判断を委ねる」


想槍は、

顔を上げた。


「……僕に?」


「君は、

 “声”を聞く役だ」


「被害者の声も、

 加害者の声も」


「聞いたうえで、

 それでも相殺するか、

 決めろ」


それは、

処理ではなかった。


裁きだった。


想槍剛は、

初めて理解した。


この組織が、

本当に危険なのは――

相殺という仕組みではない。


判断を、

人間に委ねていることだ。


そして、

自分は今、

その中心に立たされている。

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