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相殺式  作者: 冴白
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相殺

相殺とは、本来、

ゼロになるはずの行為だ。


だが、人間同士の場合、

なぜか数が増える。


 


18782(嫌な奴)+18782(嫌な奴)

=37564(皆殺し)


 


昨今、

些細なことでイライラする人が増えている。


朝の通勤ラッシュ。

隣に座った人のイヤホンの音漏れ。

混雑時に足を組んで座る女。

ベタついた頭をかきむしる無神経な男。


やれ肩がぶつかっただの、

ドア付近から微動だにしないだの、

数え出したら、きりがない。


 


SNSの普及とともに、

そういった類いの動画も

頻繁に目に入るようになった。


共感できるものも多い。

だが、わざと人を怒らせたり、

道を譲らなかったり、

煽ったりする輩も、

確かに存在する。


 


誰もが生活のために、

些細なことは我慢して生きている。


そう思わなければ、

やっていられないからだ。


 


そんな中、ふと、

こんな考えが頭をよぎる。


嫌な奴同士が揉めて、

勝手に殺し合ってくれれば、

少しは世の中が浄化されるんじゃないか。


 


こいつら、

皆いなくなればいいのに――。


 


どこの世界にも、

話が一切噛み合わない変わり者は、

一定数いるものだ。


問題は、

その一定数が、

あまりにも増えすぎたことだった。


理不尽で、身勝手な行為を繰り返す者に、

司法は追いつかない。

被害者は、救われない。


その均衡を正すため、

政府は実験的に、

ある機関を発足させた。



至る所に張り巡らされた

防犯カメラを利用し、

社会の歪みを是正するための組織。



表向きには存在しない。

法律の及ばない、

治外法権の場所で動く。


 


だが彼らは、

自らの手で

人を殺めることはない。


その秘密機関を、

「制裁」ではなく、「相殺」と呼んでいた。


 



――その頃。


 


薄暗い部屋に、

電子音が響いた。


「こちら、悩み110番です」


事務的で、

感情を挟まない声。


机の上のランプだけが点いた

小さなブース。

無数に並ぶ仕切りの向こうで、

同じような声が、

同じように誰かの人生を受け止めている。


 


受話器の向こうから、

かすれた息遣い。


言葉になる前の、

沈黙。


 


「……すみません」


震える声が、

ようやく漏れた。


 


――また一つ、

相殺されない感情が、

この世界に残っていた。

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