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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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48話 最後の裏切り(2)

 こんなものに火を点ければこの建物は木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。自分達を道連れにしようとしたのか、それとも大量の爆弾を盾に脅すつもりだったのか──。

 ダイ・カーンの態度から察するに、恐らく後者だろう。


 ヴェルツは辺りを見回す。どうすれば良い? オリンピアは顔を強張らせたままその場に立ち尽くしているし、レオンは殺気立っていて今しも引金を引きそうだ。

 ああ、こういう時マナーワンが居ればいいのに。司祭である彼ならば大司祭を説得出来るかもしれない。思いが顔に出たのだろう。レオンが小さく舌打ちする。


「あいつ等なら教会の敷地を手分けして回ってるぜ。火薬を回収してる」


「クッ……」


 堪えきれないというように大司祭が声を漏らす。教会の火薬は大半が街にばら撒かれた後だ。

 実際問題、手元にこの規模の爆弾があれば脅しにしろ実用にしろ十分に役立つ。今更残りの火薬が失われたところでさしたる損害ではない。既に街は火の海だ。混乱の中、彼が街を出るのは容易だろう。


 その事実をここに居る面々は理解している。分かってはいるが、それを完璧に止める術などない。現状では大元である教会の火薬を使用不能にすることが最良の行動であるというだけだ。ジレンマはある。だが──。


「……? どうした、ヴェルツ?」


「しーっ」


 不意にヴェルツが声を潜めた。石床にブーツの踵を踏み鳴らす音が聞こえたのだ。意外と近い。


「誰か来る」


 しかも靴音は近付いて来るごとにその数を増していくようだ。周囲を見回す。石造りの広い大聖堂。自分達は祭壇前に固まって立っている。出入り口は二つ──正面扉、それから僧房のある奥へと続く通路。

 後者の方の扉が勢い良く開け放たれた。


 咄嗟の事で対応が遅れた。レオンの銃口が宙をさ迷う。黒い影。踵と鎧の鳴る音。訓練された動きで、それは一瞬のうちに三人を取り囲んだ。全身を黒鎧で覆った十人ばかりの集団。一斉に剣を抜き放つ。聖騎士団の生き残りだ。


「猊下……?」


 表情は見えないが、兜の下から漏れるくぐもった声は明らかな戸惑いを表していた。大聖堂への侵入者を追って来たところ、そこに死んだ筈の大司祭の姿を見付けたのだ。うろたえて当然だ。

 痩せた老人が威厳を持ってその場から一歩、前に進み出た。口を開く直前のこと──。

 銃の唸り声が聖堂の空気を裂く。弾丸を撒き散らす軽快な連射音。


「レオン、やめろっ!」


 しかしヴェルツの声は完全に銃声にかき消された。


「まとめて殺すッ!」


 相当うろたえているのだろう。弾丸小僧の、誰よりも正確な筈の射撃技術が乱れている。

 天井のステンドグラスが粉々に砕け、照明用燭台が四散した。並ぶ椅子、それから壁一面に銃弾が穴を穿つ。防具のない人間と、祭壇の爆弾に弾丸が掠らなかったのは奇跡だろう。弾け飛ぶ薬莢、それから降り注ぐステンドグラスの硝子の雨。


「あぁ……どうか平穏に……」


 銃撃が止むと、自分がずっと悲鳴をあげ続けていたことにも気付かずヴェルツはよろよろと立ち上がった。すぐ側ではオリンピアが座り込んで身を縮めている。その向こうには同じ様な姿勢の大司祭の姿が。




 全身にガラス片を受け、鬼の形相でレオンは祭壇近くに立ち尽くしていた。銃口から異様な量の白煙が立ち昇っている。周囲一面、靄がかかったように銃煙で満たされていた。


「チッ!」


 目を凝らして、それから弾丸小僧は舌打ちした。靄の中の黒い影──それらは微動だにしていなかったのだ。鉄製の分厚い鎧が、9ミリの弾丸など呆気なく弾いてしまう。

 一人の黒騎士が腕を振る。それを合図に剣の切っ先は、レオン一人に向けられた。


 前列の数人が腰を落として剣を構え、後列の騎士達が上段に剣を振りかぶる。ひょろりとした体格の貧弱そうな若者と、座り込んだままの女を無視して、彼等は銀髪の少年一人をターゲットに絞り彼を円形に取り囲んだ。


 カチャン──。彼は銃を放り捨てる。素早い動きで背中に負っていたショットガンを構えると初弾を薬室に装填した。


「来い! さっさとお前ら片付けて、今度は武装したカトリック軍を蹴散らさなきゃなんねぇんだからな!」


 眼がギラギラ輝き、頬が紅潮している。

 マズイ。ヴェルツは思った。大惨事の予感に顔を引き攣らせる。騎士隊は無言で陣形を入れ替えながらレオンに迫った。


「ま、待ってくださ……」


 ヴェルツが大声をあげた途端、騎士団の黒兜がこちらを向く。ヒイッ! 情けない悲鳴が迸る。


「あの……。ま、待ってください」


 言いながらも無駄だと思う。この教会を統べる最高位の大司祭猊下──死んだ筈の彼の生存が確認されたのだ。騎士団の間に驚きと同時に安堵と喜びが湧き上がるのは否めない。


 片やこちらは容疑者として追われている司祭の姪。

 殺害の容疑が傷害に変わっただけで、その立場が危ういものであることは変化がない。

 それから物騒な武器を抱えてよく教会に出入りしている小僧。後は見慣れぬ地味顔の自分。


 どちらの言うことを聞くかは明白だ。大司祭の合図一つで自分たち三人は捕らえられ──或いは裁判すら許されず処刑されるに違いない。教会組織とはそういうものだ。


「お、落ち着け。落ち着け、自分。前向きに……まえむ……」


 奥歯がガチガチ震える。前向きに考えろと頭の中で繰り返す。この事態にどう対処できる?

 聖騎士に戦いを挑むのはどう考えても愚かだ。また、逃げることも難しい。できれば平穏に話し合いたい。そうは思う。しかしこの事態……。

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