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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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46話 大聖堂へ(4)

「オリンピア、あなた右利きでしたね。何故左手で(それ)を持っているのですか」


 腕の不調を見抜かれている。


「……わたくし、両方で撃てますのよ。叔父様」


「それは初耳ですね」


 緊迫した空気が流れる。オリンピアの脳裏に幾つもの疑惑が渦巻いた。

 ロックは大司祭殺しの犯人は見付かるわけないと言った。彼は知っていたのだ。彼女の叔父が生きていた事を。

 二人が組んでいた? いや、まさか。それは考えられない。


「EDE.は……」

 叔父の不意の言葉に、オリンピアはうろたえた。

「EDE.は使い物になりません。あくまで街に縛り付けられている。個人の自我が強すぎて騎士団とも軋轢を生じて、実に使いにくい」


「叔父様……?」


 自らが作った部隊に対して突き放した言い方に、オリンピアは違和感を覚える。


「マナーワンにEDE.を仕切らせたのは身寄りがなく、野心はあるが小心だからです。レオンには目新しい武器さえ与えておけばおとなしい。モリガンにも生活の糧として仕事を与えれば動く。しかし彼らには最大の欠点があります」


 そこで大司祭は言葉を切った。最大の欠点──彼等には一切の忠誠心がない。


「そんなこと……マナーワンは真面目な聖職者ですわ。叔父様の事も尊敬して……。他の二人だって」


 言いながらオリンピアは、自らの言葉が空しく響くのを感じていた。確かにあの人たちに忠誠心は皆無だ。自らが納得しなければ決して動かない。

 しかし、とも思う。独立した組織にとって大切なのは服従ではなくて自我ではないのかと。


「余が撃たれた時、あの者達はよりにもよってこの余を放って逃げ出したではありませんか。聖騎士団長も、我が姪である貴女も」


「それは……」


 言葉に詰まる。確かにそうだ。だがあの時は……。


「お、叔父様こそあの時……。だ、だって、撃たれて……」


 大司祭ダイ・カーン・シュールディッヒの視線は冷たかった。


「余は大司祭なのですよ。僧衣の下には常にボディアーマーを装着しています。一般的な弾丸なら軽く弾いてしまえますよ」


 ただ、さすがに撃たれた時はその衝撃で昏倒してしまいましたがね。一時的に呼吸も止まったようです。気が付いたのは地下の安置所したね。何があったか分からず、一人で逃げましたよ。こうなった以上、誰が敵かすら分からない。


 だから人気のない街外れの塔に逃げ込んだのだと言う。

 そこで拘束されたロックを見付けたのだろう。撃ち殺した筈の大司祭その人が突然目の前に現れ、ロックとて驚いたろう。

 死者である大司祭が彼に囁いた言葉が「オリンピアを連れて来い」だった。


「わたくしを……?」


 塔で──あの場所で再会したのは彼の意志ではなく、大司祭の命だったのだと? オリンピアの全身から力が抜けた。その一瞬を、ダイ・カーンは見逃さない。滑るような動きで近付き、彼女の銃口に自らの指を突っ込む。


「な、何を……」


「撃てないでしょう。撃ったら弾丸が詰まって銃は暴発しますよ」


「あ……」


 弾丸の唯一の発射口を塞がれては、確かに行き場を失った弾は銃内部で爆発する。


「そ、そうすれば叔父様だってただではすみませんわよ」


 ニヤリ。至近距離で笑われ、オリンピアはたじろいだ。


「銃を持っている貴女の両腕は吹き飛びますよ。二度と仕事が出来ない」


 そんなことになれば貴女の存在価値はなくなりますねぇ。


 オリンピアの指がカタカタ震えだした。負傷した腕の限界がきたのか、それとも精神的なショックが大きかったか。

 信頼していた叔父に、愛しかけていたロックにも裏切られた。手はズタズタで、銃ももう撃てない。目の前が涙で霞んだ。

 ダイ・カーンは指を抜く。精神の強い姪が泣き出す様に、痛々しげに目を細めた。


「ああ、余は貴女を見捨てたりはしませんよ」


 一緒に街を出ましょう──大司祭は囁いた。オリンピアは小さく首を横に振る。ロックと同じことを言う。ああ、そうか、彼は叔父様に命じられてわたくしにそう言ったのだわ。


「戦乱ばかりのこんな場所に楽園なんてありません。外国へ行きましょう。フランスでもネーデルラントでもいい。そこで二人で新たなEDE.を造るのです」


「新たなEDE.?」


「優秀な武器職人である貴女が居れば何でも出来る。余は死んだことになっているから動きは自由です。武器を売り捌いた金も十分にある。兵隊は現地で徴収します。どの勢力にも属さない凄腕の傭兵隊としてヨーロッパ世界を席捲できます」


 オリンピアはゆっくりと目を閉じる。

 ああ、そうか──。叔父が元凶だったのだ。

 平和を求める人だと思っていた。しかし……瞼の裏には炎の赤が蘇る。


 大司祭が金のために見境なく武器を横流しした結果、敵方のカトリック軍が最新整備を整えるに至った。その結果、街は崩壊しようとしている。火薬集めや武器製作──自分達は結局、この大司祭にいいように使われていたわけだ。


「そんな目で見ないでください。余とて考えています。マクデブルク大司祭の死を頃合に発表して、街を包囲するカトリック軍に降伏すれば良いでしょう。それで街は救われます。その頃、余と貴女は外国へ逃げている」


 オリンピアはゆっくりと首を振り続けていた。利き腕が小刻みに震える。痺れが肩にまで上がってきた。もうこの腕は役に立たないだろうと思う。絶望、それから後悔。自分のこの技術が、叔父に野望を抱かせたのか? この腕があるから……いや、そもそも自分なんかが居たから。


 もう、他の事は考えられなくなっていた。左手で銃を持ち、慣れない動作で手を上げる。

 銃口は自らのこめかみに。使いにくい手でも、この距離なら外さないだろう。


 叔父が何か叫んだ。その声を遠くに聞きながら、彼女は目を閉じる。ゆっくりと引金を引く直前、ロックのことを思った。知りすぎてしまったあの人は殺されるのかしら。それとも逃げおおせるのだろうか。いや、もうどうでもいい。愛していると言われたその言葉に、今は少し縋ってみよう。


 ゆっくりと指先に力を込める。銃の内部でカタカタとローラーが回転する音。ぎゅっと目を閉じる。

 一気に引金を押し込むその瞬間、オリンピアの銃を、一発の弾丸が弾いた。



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