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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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44話 大聖堂へ(2)

「オリンピア、おれと逃げよう。その腕じゃもう何もできないだろ。仲間なんてどうせお前の技術(ウデ)しか必要としてないんだ。ドイツのどこか……外国でもいい。二人で逃げ……」


 細い身体を抱き締めた。拳を叩き込まれてもいいし、突き飛ばされてもいい。そう思って。

 しかし彼女は微かに呻き声を上げただけだった。弾丸が掠った右腕が痛むのだと気付いてロックは慌てて手を放す。だがオリンピアは好戦的に顔を上げた。


「わたくしは戦えますわ。このくらいの怪我じゃ銃を撃つのに支障はないわ。わたくしにはこの技術(ウデ)がある。他の誰も持っていない技術です」


 彼女の頑なすぎる態度。その苛立ちがロックの思考を奪った。


「……な、何でお前が戦うんだ。イカれた銃なんて造ってどうなるってんだ」


 他に何も出来ないから? 他に居る場所もないからか?

 ロックは彼女の両腕をつかんだ。痛みと脅えに悲鳴を上げかけるその声を自らの唇で覆って、彼はオリンピアの身体を僧房の床に押し倒した。


「オリンピア、おれと逃げよう……な?」


 何度も何度も耳元で名前を囁く度に、彼女は激しく首を振る。こんなにもおれは拒絶されているのか? ロックの絶望が広がった。


「手を放して!」


 声には殺意すら窺える。


「何故……?」


 何故受け入れてもらえない? 彼の想いは確かに歪んだ情熱だ。それでも、と思う。


「オリンピア、愛しているのに……」


 唯一確かな想いを口にする。全てを失った自分に寄り添ってくれるのは、もう彼女しか居ないのだから。


「何……、ロック?」


 一瞬硬直した唇を指先で触れて、赤く染まった耳たぶを舌先でなぞった。


「ロック……」


 耳から首へ唇が移動する度、オリンピアの頬が紅潮する。


「どうして……?」


 頬を張られたような気がしたが、その手には力がなかった。つかんだ手首には連戦の負傷か、打ちつけたように赤く染まった跡が見える。痛々しい。その痕に優しく唇を寄せる。


「うっ……」


 呻きには涙声が混じっていた。


「オリ……」


 組み敷いた女の顔を見て、ロックの動きは一瞬凍り付く。薄い茶色の双眸を潤ませながらも、彼女は真っ直ぐこちらを見据えていたのだ。


「おれを見るな……」


 例えようのない敗北感に打ちのめされて、ロックは片手で彼女の目元を覆った。それでも愛しさが込み上げる。ロックは彼女を抱き締めた。


「ロック……」


 彼女の腕がおずおずと自分の背に回される。

 歪み切った自分。しかしこの瞬間、想いが通じた気がした。


「……二人で逃げよう。どこか遠く……銃も何もない所……。おれは裏切らない。だからお前も……。な、オリンピア」


 まぶたが重く、言い得ない満足感が全身を駆け巡る。腕の中で彼女が頷いたような気がして、ロックはそのまま目を閉じた。




 しかし気が付いた時、男は一人だった。


「オリンピア……?」


 意識を手放していたのは僅かな時間に違いない。しかし狭い部屋に彼女の姿はなかった。


「まさか……」


 窓が開け放たれていることに気付いて、ロックは小さく呻いた。下を覗き込む。建物の三階だ。飛び降りればただでは済むまい。しかし身体能力の高い彼女であれば……。


 ロックはその場に座り込む。彼女が逃げるのは当然だ。そう思った。こんなにも捻くれた男と行動を共にしようなどと、聡明な彼女が思うわけない。

 クソッ、と呻く。ロックはその場に座り込んだ。オリンピアを探しに自分もこの窓枠を飛び越えるべきか、それとも他の何かをすべきなのか。今の彼には何も考えられなかった。


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