42話 燃える都市(5)
代わりに彼は周囲を見渡した。
「きな臭い……」
そうですね、とマナーワンが頷く。
街はかなりの範囲が炎に包まれていた。騎士団を止めると言っていたゴーチェの説得は上手く言っていないのだろう。ある程度予想していたこととはいえ、僧の声は震えていた。
「いや、違う。臭いのは……」
エ? まさか私では、とキルスティンがクンクンと鼻を鳴らした。
「違うって」
軽く流してからレオンは声を潜める。
「大司祭は誰に殺されたんだ? 武器の横流しと関係あるんだろ。だったら……」
何が言いたいんですか、との僧侶の問いに彼は軽く頬を歪めた。
「気に喰わなかったんだ。相手によって言うことが違う。あのじいさんの言葉は甘すぎるんだ。砂糖みたいに直ぐ溶けて、なくなっちまう……」
──知ってたんだろ。
その言葉にマナーワンは引き攣った顔を上げる。
「知ってたんだろ。大司祭が何をしてたか。武器を横流ししてたのは多分あのじいさんだ。それ以外考えられない。当人が死んだから、だから今こんなに情勢が混乱しているんだよ」
まさか、そんな……、とマナーワンが絶句する。
「亡き猊下を侮辱するなんて、いくら……いくらレオンさんでも許しませんよ」
路地裏の空気が急変した。マナーワンがレオンを睨む。
その間にヴェルツは割り込んだ。
「レオン、一刻後に落ち合うって言いましたよね」
「え? う、うん……」
自信なさ気に銃を触っていたヴェルツの様子が一変したことに、周囲は戸惑ったようだ。
「頼みがあります。時間まで自分に射撃を教えてください」
その剣幕に、弾丸小僧は身を引いた。
「い、いいけど? 何で? ああ、分かったよ……」
何故、と問われればこう答えただろうか。
迷っている場合ではないし、揉めている場合でもない。オリンピアを助けるのに、役に立ちそうなことならば全てやっておきたい。限られた時間で、しかも彼女を見つける手立ても潰えた今だが、それでも出来ることはある筈だ。
「じゃ、じゃあ拙僧も」
同じ気持ちからか、マナーワンも銃に手を伸ばす。
「坊さんは止めとけよ」
聖職者だろ。そう言われて彼は俯いた。
「銃とかそういう血生臭いことは、全部僕たちがやるから」
すみません……。小さな声で僧侶は呟く。
僕達の中に自分も入るのかなと、ちらりと考えてながらもヴェルツは銃を構えた。




