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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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40話 燃える都市(3)

「あの塔で助けられなかったら、俺は今頃死んでいた。騎士団を止めたら、貴様等は無実だと訴えてやる」


 意外と熱い男はそう言うと立ち上がった。きょとんとしているキルスティンに一礼すると、部屋を飛び出す。大聖堂に向かったのだろう。


「僕達も追おう。行こう、モリガン」


 側に置いていた銃を抱えてレオンも駆け出す。あの男に任せておくのが癪なのだろう。


「どうする?」


 モリガンの問いに、マナーワンは首を振る。


「拙僧は《死天使シュテルベン・エンゲル》が心配です。彼女を探しに……」


 そうかと頷いてモリガンも部屋を出た。


「いいですか。ここが正念場ですよ」


 一人で気合を入れているマナーワンを尻目に、キルスティンが声を潜めた。


「ヴェルツ、さっきの人……誰なの?」


 兜を脱いだゴーチェを見たことがなかった彼女は、展開に全く付いていけなかった様子だ。

 道理で大人しいと思った。話が分からない彼女は途中から完全に別のことを考えていたらしい。やはりゴーチェは望み薄だなと考えながら、ヴェルツは最後の望みを姉に託した。


「頼むよ、姉ちゃん。縄を解いてくれ……」


 街は既に炎に巻かれていた。

 行政府庁、公民館、広場。方角から見て、大聖堂を除く街の主要機関全てに一気に火がかけられたようだとマナーワンは言う。外から来たカトリック軍がこれだけ街の地理に精通している筈がありません、と。


「やっぱり黒騎士の言う通り、聖騎士団が……?」


 俄かには信じられない。住む場所を壊される辛さを、ヴェルツは痛い程知っていたから。

 道路は逃げ惑う住人で溢れ返っていた。よって動くこともままならない。

 空いている裏道を縫って走って、ヴェルツとマナーワン、そしてキルスティンは街外れの塔から戻る途中であった。


 塔からは既に火は消えており、石が黒く焦げた嫌な臭いを漂わせている。煙に用心しながらも一応中に入ったが、人が居ないのは明らかだったし、オリンピアの行方の手掛かりも見付けられなかった。


「他に彼女が行きそうな所は?」


 ヴェルツはマナーワンに問う。残念ながら彼女について知らなさすぎる自分には、この街でのオリンピアの行動は見当もつかない。しかしマナーワンも肩を竦めた。


「知るもんですか。拙僧は《死天使シュテルベン・エンゲル》が大聖堂にいるところしか知りませんよ。買い物にも行かない人でしたからね」


 僧形の男の言葉には棘がある。


「それじゃあ、とりあえず大聖堂に向かってみよう」


 姉の発案に、反対意見も思いつかず、ヴェルツは頷いた。何とも心許ない。


「行方不明の武器製造者の捜索と、大聖堂に保管されている大量の火薬の確保ですか。いかにも特殊部隊らしい任務ですが、猊下が亡くなられた今、我々には雇い主が居ないことになる。損です。動いても一グルテンにもなりはしないのですから」


 ──いちいちクドクドうるさいなぁ。


 ヴェルツは僧から見えないよう溜め息をついた。こっちは縛られた腕も体もまだヒリヒリ痛むというのに、文句一つ言わず走り回っているんだ。


「じゃあ、どこかに訴えようよ。お坊さん。公の所に訴えて抗議しよう!」


 よせばいいのに姉が張り切る。案の定、マナーワンは噛み付いた。


「あなたは二言目には抗議抗議って……この抗議女!」


 僧侶が苛付いているのが感じられる。気持ちは分からなくもない。《死天使シュテルベン・エンゲル》が心配でならないのだ。燃え盛る街で、生死も分からない彼女をどうやって探せば良いと言うのか。


 しかしこういう事態であるからこそ、前向きに考え行動しなければなるまい。

 ヴェルツはオリンピアを見付け、尚且つロックも探し出して助け出そうと考えている。オリンピア以上に立場の危うい友人だが、既に命を落としているとは考えたくなかった。

 そんなヴェルツの隣りで姉が声を荒げる。


「こ、抗議女って何なの。この愚痴坊主め!」


「な、何ですって。あなた、今何と……」


 姉とマナーワンは下らない言い争いを始めてしまった。

 ああぁ……。ヴェルツは頭を抱えた。おちおち考え込むことも出来やしない。


「姉ちゃん、止めろよ。お坊さんも。もっと前向きに考えてくれ。たった三人しか居ないのに団結できないなんて……」


「だって!」

「ですが!」


 二人が口を尖らせた時だ。周囲の静けさに、ヴェルツはようやく気付いた。

 火の中を逃げまどう群集の叫びが随分遠くに聞こえる。横目で二人を見るが、姉とマナーワンが異変に気付いた様子はない。元より常人より数倍鈍い神経を持ち合わせた二人だ。最初(ハナ)から期待しちゃいないが。


「静かに……」


 足音が聞こえる。固い踵が地面に打ち鳴らされる音。それは三人を取り囲むように近付いてくる。


「ヴェルツさん、これは……」


 ようやくマナーワンが焦りの声をあげた時には、彼等は完全に囲まれていた。

 黒い鎧を着た騎士が六名。黒い刃は真っ直ぐにマナーワンに向けられている。

 そう言えば、この坊主が大司祭殺しの犯人にされていたんだっけ。今更ながら重大な事柄を思い出して、ヴェルツは青ざめる。


「ど、どうする。姉ちゃん」


 姉を守るように両手を広げたヴェルツのその背に、マナーワンも張り付く。離れろと言う前に、騎士たちの殺気が鋭くなった。

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