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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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38話【第三章 楽園の行方】燃える都市(1)

 無理矢理口をこじ開けられた。口内に何かカタマリを詰められた感覚で、意識がぼんやりと回復する。


「うっ……」


 ──何だ、これは。どうなっている。


 初めに感じたのは体の不自由さ、そして節々の痛み。目覚め切っていない意識が認識するのは、自分が拘束されているらしいこと。


「よし、やれ」


 遠くで聞こえる──この声はレオンのものか。

 それに答えて「えいぃ!」掛け声を上げたのがマナーワンだと気付いた瞬間、全身に冷水を浴びせられヴェルツは一気に覚醒した。


「ンググッ?」


 狭い部屋。自分は椅子に縛り付けられている。

 目の前には仁王立ちしたレオン。そしてバケツを持ったマナーワン。

 決して友好的とは言えない雰囲気である。特に僧形の男の方は怒りに顔を歪めてすらいる。


「な、ぐぐ……」


 ──何だ、一体。やめてくれ。


 そう叫んだつもりだが、くぐもった声が微かに漏れただけ。口の中には布が詰められていた。


「どういうことですか!」


 マナーワンが詰め寄る。椅子を激しく揺すられた。


「な……んん……」


 何のことですかと言おうとして通じないと悟り、必死で首を振った時だ。

 突如、横から空気を裂く音が。振り返ろうとした瞬間、鼻に衝撃。ヴェルツの体は椅子ごと後方に倒れた。その胸倉を掴み起こしたのは他ならぬ姉、キルスティンである。


「あんたは何やってたの! オリンピアちゃんはどこに行ったの? ちゃんと守るようにって言ったでしょ!」


 あまりの大声と音に、小部屋の扉が激しく叩かれる。


「モリガンちゃん、何やってんのよ!」


 年配の女が怒鳴り込んで来た。「まぁまぁ」と宥めて追い返したモリガン。今度はキルスティンの肩を叩く。


「キルちゃん、落ち着け。弟だろ」


「でもっ!」


 不甲斐ない弟! わっと叫んでキルスティンが泣き出す。下手な小芝居に出鼻を挫かれたらしいレオンとマナーワンが顔を見合わせた。


「……知らないのか?」


 口の中の布を、汚い物を持つように摘み出してレオンが問う。


「だ、だから何が……」


 咳き込みながら、ヴェルツ。

 さっぱり分からない。そもそもここはどこで、あれからどのくらいの時が経ったのだ。自分は塔に居た筈で……。そこまで考えて彼は顔を上げた。


「オリンピアは……?」


 言った瞬間、頬を張られた。


「だからそれを聞いているんです。彼女はどこに……。何があったんですか。ヴェルツさん、あなたは彼女と一緒だったのでしょう!」


 マナーワンの怒りが弾けた。ヴェルツの胸倉をつかむのを、今度はモリガンが止める。


「夕べ遅く、オリンピアが消えていることに気付いたんだ。探していたら街外れの塔から火が上がってな。レオンが駆け付けたら、あんたが倒れてたってわけだ」


 ああ、そうだ。オリンピアとはぐれて。それで……。


「──殺されたのかもな」


 レオンが小さく呟いた。ヴェルツは顔を上げる。殺された? まさか、彼女が?


「血の臭いがしたんだ。あんたが倒れていたより上の階だ。あと、硝煙の臭い……」


 レオンの後ろから姉が顔を出す。


「レオンが出て行って直ぐ、私たちも聖騎士団に襲撃されたの。お坊さんがパニック起こしてね。モリガンちゃんと一緒に連れて逃げるの大変だったんだ」


「そ、それは申し訳ありませんでしたね」


 マナーワンが声を荒げる。


「幸いモリガンさんが色々な所のお得意様でいらっしゃるから、すぐにこちらの娼館に逃げ込むことが出来ましたが」


 モリガンは砂糖菓子を齧っている。マナーワンの言葉の棘には気付かない様子だ。モリガンちゃん、頂戴と言ってはキルスティンもその欠片を貰っている。


「……モリガンちゃんじゃないだろ。」


 ヴェルツは脱力した。こいつらには危機感というものがないのか。


「とにかく縄をほどいてく……」


 言いかけた時、何かに気付いた。


「自分と一緒に黒騎士……ゴーチェ・フォーレも居ませんでしたか。あと、ロック……自分の友人もどこかに……?」


 ああ、それなら……。答えたのはレオンだ。不機嫌に顔を顰めている。


「暗殺屋ならあそこだ。何があっても起きやしない」


 見ると部屋の隅にゴーチェが転がっている。

 見たところ、ヴェルツより雑に扱われたらしい。縄でぐるぐる巻きにされ、無造作に床に転がされている。


 火災の中、二往復して図体のでかい男二人を救出した弾丸小僧の腕は、火傷で赤く腫れていた。

 すみません、と縛られたまま頭を下げる。すみません。自分が悪いんです。分かってます。だからどうかこの縄を……。


「それで、何? あんたの友人? それは知らないな。あそこに居たのか?」


「それは分からないけど……」


 首を横に振る。オリンピアが言うにはその可能性が高いということだったが。


「もしかしたら、彼女と一緒に逃げたとか?」


 小さな独り言に、マナーワンが再びヴェルツの頬を叩く。


「ありえません。《死天使シュテルベン・エンゲル》がそんな男と逃げるなど……」


「でも、デキてたら? 二人、知り合いなんだろ? 可能性は……うっ!」


 今度はレオンが叩かれた。何すんだよッ、と途端険悪になった空気。マナーワンが激しく噛み付く。


「下品なこと言わないで下さい。例え……もしも、例えば恋人同士だとしてもそんな曖昧な理由で行動するような女性ではありません! 失礼でしょう」


「……すみません」

 条件反射でヴェルツが謝る。

「自分もそう思います。それで、あのぅ……できたら縄を……」


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