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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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35話 サイレンサー(3)

  ※  ※  ※


 囲まれた。六人だ。

 幅の狭い廊下を、兵士が前後から三人ずつ。挟み撃ちにされたのだ。


「壁際に下がって! 動かないでください。わたくしに任せて」


 オリンピアが駆け出した。まずは前方の三人めがけ、突っ込む。


「オリンピア、無茶だ!」


 彼女は丸腰。対して相手は屈強の兵士。分厚い胸当てを装備し、しかも腰には太い長剣を帯びている。

 しかしオリンピアは止まらない。三人のうちの一人、向かって一番左の男──剣を抜きかけた腕を取り、手首を捻って関節を極める。

 細い腕に、とんでもない力を込めているのだろう。男は呆気なく剣を取り落とした。その体勢のまま、オリンピアは左足を蹴り上げる。爪先が相手の喉元を捉え、男は昏倒した。


 全てが一瞬の出来事。

 空中に止まったまま、流れるような動きで今度は右足を回転させる。真ん中の兵士の顔面を蹴りつけた衝撃で、男は意識を失って後方へのけぞった。最後の兵士にぶつかり、二人は倒れる。鎧がぶつかり合う金属音が重なった。その衝撃と圧力に、三人目の兵士も動きを止める。


 片側を片付けたオリンピアは、今度は逆側の犠牲者兵士達に視線を転ずる。

 片側の三人は瞬時に倒された仲間を見て、オリンピアに対しての警戒心を最大にしたようだ。剣を抜いて彼女を取り囲む動きを見せる。


「危ないっ……!」


 叫んだヴェルツを、オリンピアがちらりと見やる。小さく呟いた声は聞こえなかったが、口の動きは「心配しないで」だった。


 ──まるで天使だ。


 《死天使シュテルベン・エンゲル》ではなくて、空を舞う天使。

 オリンピアが踊るように闘う様を、ヴェルツはただ眺めるだけ。


 地面に足をつけた彼女は、そのままの動きで爪先を軽く動かした。先程倒れた兵士の剣を蹴り上げたのだ。器用に空中でそれをつかむと、瞬時の動きで兵士目掛け投げ付ける。柄が正面からみぞおちを打って、その男は胃の内容物を吐瀉してその場に崩れる。後の二人が慌てて剣の切っ先をオリンピアに向けた。

 トントントン……。小刻みなリズムは、彼女がその場で軽く飛ぶ音だ。


「死ね!」


 先手必勝、とばかりに男が剣を突き出した。隙を見せない構えでそのまま突っ込んでくる。騎士団のように華麗ではないが、実践的な剣の使い方だ。


 トントン。リズムが速くなる。

 オリンピアの足が一際強く床を叩いた時だ。その身が本物の天使のように翻った。

 剣の切っ先に軽く片足を引っ掛け、両膝で男の頭を挟む。腕を振って上体を捻り、兵士の頭をまずは壁に、返す勢いでもう一人の顔面に激突させる。最後は足を放してクルリと空中で身を後転させると、とどめとばかりに二人の頭を膝で抉ってから着地した。


「参りましょう、ヴェルツさん」


 息も乱さずそう言うのと、二人が床に倒れるのは同時であった。


「は、はい……」


 ヴェルツはぽかんと口を開けたまま、コクコクと頷いた。オリンピアが首を傾げる。


「やりすぎでしたかしら?」


「いえ……」


 ふるふると首を振る。

 素敵でした、と言うべきか否か。ヴェルツは一瞬悩む。結局、何か気の利いたことを言おうと口を開きかけた時には、もうオリンピアは彼に背を向け、階段に向かって駆け出していたのだった。


 階段を登り切ってオリンピアは足を止めた。彼女の背を追って走るヴェルツもその場に立ち止まる。既に息が切れていた。オリンピアの足に合わせて走るのに精一杯だったのだ。

 塔の狭い階段、廊下を通ってきた彼等の前に、階の全てを使った巨きな空間が広がっていたのである。


「あ、あれは……?」


 空間の隅の方に、黒く錆び付いた鉄の荷車のようなものがある。


「大砲ですわ。効果がないとは言わないけど、使い勝手の悪い、旧時代の武器ですわね」


 城壁と一緒に、都市計画の一環として運び入れたのかしら。ここから街の外の敵軍に対して大砲を撃つ。


「でも、錆びてしまっていては役に立たないわ」


 行きましょう、と短く呟いてオリンピアは更なる上層階を目指した。その足取りが次第に重くなっているのに、ヴェルツは気付いていた。


「どこか怪我を?」


 いいえ。《死天使シュテルベン・エンゲル》は首を振る。


「本当に、ここにあの人が居るかどうか……」


 もしかしたらわたくし達、全く見当違いの所を探しているのでは? こうしている間にもロックは……。

 嫌な予感に苛まれているのだろう。ヴェルツはオリンピアの前に進んだ。彼女を追い抜いて、先に階段を登る。


「この塔の部屋、全部調べましょう。もしどこにも居なかったら、それから次のことを考えたらいい」


 オリンピアが俯く。微かに笑っている気配。


「そうですわね。気が遠くなりそうだけど、確かにそれが一番近道だわ」


 二人が階段を登りかけた時だ。またもや数人の兵士が飛び出してきた。


「ヴェルツさん、離れていて!」


 焦る様子もなく彼女は腰を落として戦闘態勢を取る。今度の兵士達は銃を取り出した。躊躇する素振りも見せず、二人に向けて引金を引く。


「オリンピア……!」


 先に身体が動いたのは、やはりオリンピアの方だった。ヴェルツを突き飛ばし、自分も床に身を伏せる。頭上を弾丸が通り過ぎる気配。

 瞬間、ヴェルツとオリンピアの前で眩いばかりの光が弾けた。


 オリンピアが何か叫んだが、今度は分からない。


 次いでドン、ドン、と小さな爆発音が立て続けに起こる。ヴェルツはあっと声をあげた。

 火薬だ。大砲と一緒に、当然消耗品である火薬もここには置いてある。それに弾丸が掠めて、爆発が起こったのだ。そう悟った瞬間、一際大きな爆音が。


 爆風を喰らってヴェルツの身体が飛んだ。

 同じように飛ばされたオリンピアの行方を目で追う間もない。壁に激突し、背中に衝撃。階段を転がり落ち、激痛にのたうつ。意識が飛ぶ。全身を舐める熱気に気付いた時は、既に手遅れの状態だった。

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