32話 疑惑と約束(5)
出来うる限り簡潔に、感情を交えず語られた彼女のこれまでの生き方。ヴェルツはかける言葉を探す。
友人と似ていると思った。境遇や生き方ではなくて、額に落ちた暗い影が。だからだろうか。オリンピアが友人に惹かれているのは。
「ですからとても嬉しかったの。あなたがわたくしを守ると言ってくれた時」
守られるような価値は、わたくしにはないのですけど……と付け加える。
「そんな……」
反論しかけたヴェルツを、彼女は制する。
「だから今度はわたくしがお約束しますわ。あなたと、あなたのお友達はわたくしがお守りします」
あなたはとてもいい人だから、と言われヴェルツの視線が沈んだ。
「ヴェルツさん、こっち!」
名を呼ばれ、ヴェルツは我に返った。
「す、すいません。ぼーっとしてました」
この台詞は何度も言った覚えがある。村での自警団時代の会議を思い出し、一瞬の後、事態はもっと深刻なのだと慌てて声を低める。
「す、すみません……」
塔に侵入して、自分が不注意に発砲したものだから今、こんな事態になっているのだ。
すぐ横で、唐突に壁の一部が弾けた。オリンピアに頭を押さえつけられ、その場に蹲る。
塔内部に入って、螺旋階段を上へ上へ登っている時だ。下から小銃の発射音。オリンピアが応戦するが、多勢に無勢。二人は階段を後退していった。
「ど、どうしましょう……」
足元で弾丸が弾けるたび、踊るようにその場で跳ねる。的が大きいだけにヴェルツは狙われていた。
「しっかりして!」
オリンピアがヴェルツの背を叩く。
「大丈夫ですわ。わたくしがいます。どうか前向きに考えてください」
「ああ……」
自身の口癖をぶつけられてヴェルツは何度も頷きを返す。この事態。塔のどこに居るか分からないロックを探し出して救出するなんて土台不可能だ。
「と、とにかく逃げましょう、オリンピア!」
声に出したその時、またもや銃声が。危ないと叫んでヴェルツは咄嗟にオリンピアを突き飛ばした。瞬間、腕を強烈な熱が掠める。
「ヴェルツさ……、怪我を……?」
オリンピアが銃を取り落とした。それは音立てて階段を転げ落ちていく。しかし彼女は唯一の武器に頓着した様子も見せず、ヴェルツに肩を貸して立ち上がった。
「そうですわね、とにかく逃げましょう」
「う、うん……」
腕にぬめりとした嫌な感触。傷口から血が溢れ出しているのだと分かり、ヴェルツの額が徐々に色を失っていく。
「大丈夫ですわ」
オリンピアの口調は強い。
「わたくしが必ずお守りすると言ったでしょう」
大丈夫ですわ。彼女は己に言い聞かせるように、もう一度呟いた。それが有無を言わせぬ口調に聞こえて、ヴェルツは黙る。
武器も持たぬ女は、しかし強い光を宿した双眸を廊下の暗闇に見据えていた。




