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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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31話 疑惑と約束(4)

 銃身を触ってから、片手で上階の兵士目掛けて引金を引く。

 銃声はない。空気の漏れる微かな音と共に兵士は倒れた。


「し、死んだの?」


「いえ、こめかみ近くに銃弾が通るよう狙ったので、脳震盪を起こしただけですわ」


 次に彼女が狙ったのは兵士が持っていたランプだった。


「こっそり様子を伺おうと思っていたけど、今の銃声で気付かれてしまったみたいね。仕方ありませんわ。このまま侵入しましょう」


「は、はい……」


 わたくしに付いて来て下さい──そう言われ、ヴェルツはただ頷いただけだった。

 正直、男としてどうかと思う。

 ヴェルツはオリンピアに付いて塔の廊下を走るだけだった。彼女を守るというより、邪魔にならないよう大きな身体を縮めるだけ。


 彼女が何故そんなに銃の扱いに詳しいのか、その疑問はオリンピア自身の口から既に語られていた。ごく軽い口調で語られたその話が思い出される。

 塔に向かう道すがら、まるで焦りを誤魔化すように彼女はずっと喋り続けていたのだ。

 巻き込んでしまった事への侘び、それから礼。


「謝らなければならないことがたくさんありますわ。わたくしのせいで、あなたの村が……」


「村が傭兵隊に襲われたのはあなたのせいじゃ……」


 この時代、それはドイツでは日常の光景だ。しかし彼女は首を振る。


「いいえ、わたくしのせいです」


 何故? とヴェルツは足を止めた。しかし彼女は夜の街路を進む歩調を緩めはしない。視線は暗く沈む塔に注がれたまま。


「この腕、ですわ」


「腕?」


 視線を逸らさずに、彼女は続ける。


「デッサウの戦いをご存知?」


「デッサウ? ええと……」


 たしか一六二六年四月。神聖ローマ帝国軍総司令官ヴァレンシュタインが数万の軍隊で、プロテスタント側のドイツ人傭兵隊長マンスフェルトの軍を破ったという……。


「プロテスタント側の小貴族として参戦していた父が……そこで死にましたの」


 ヴェルツは小さく声をあげた。オリンピアは慌てて首を振る。


「ごめんなさい。困らせるつもりはないの。悲しんだけれど、言っても仕方ないことだと今は思っているから」


 ──だって、楽園(エデン)なんてどこにもないのだもの。


 オリンピアの表情は窺い知れない。


「あの……」


 気の利いた台詞を言えない自分が歯痒い。彼女にこんな顔をさせたくはなかった。ああ、ロックなら上手い言葉を思い付くだろうに。

 ヴェルツが俯いてしまったのを見て、彼女はもう一度ごめんなさいと呟いた。


「楽園なんて夢物語みたいなことを言ってしまいましたわね。とにかくその後、回復令で……つまりプロテスタント側の貴族の領土を皇帝側が接収するという決め事のせいで、わたくしと母は屋敷を追い出されましたの」


「そんな無茶な!」


「それも仕方のないことですわ。わたくしたちは、母の実家でしばらく厄介になりましたの」


 その頃の貴族の生活は最悪でしたわ。特に新教(プロテスタント)側の小貴族はどんどん取り潰されていって、ちりぢりになった騎士たちはは生きる術も知らないものだから、村を襲っては略奪を繰り返すようになって……。


 彼女たちが身を寄せた家は、小貴族ながらもそんな時勢に目を付けて武器職人の工房を抱えていたと言う。時代に即して生きながらえるつもりだったのだろう。

 それは暴力を助長する体制ではあるが、生き抜く為には仕方ない。戦う為に武器を取ることは自明の理なのだから。


「わたくし、工房を随分手伝いましたの。勿論、造っていたのはマスケット銃など一般的な小銃ですわ。世間に広く流通している単純な構造の銃です。ただもっと丈夫な素材があれば大型の火器や、連射可能な銃を造れるのにとずっと思っていましたの」


「それで……?」


 母親が死んで、彼女は親戚の大司祭を頼ってこの街に出て来た。

 すると姪の腕に目を付けた大司祭がEDE.を創設したのだと。教会の金蔵はいつの時代でも潤っているものだ。たっぷりある資金を使って、彼女は武器開発に専念した。


「正直、その時は面白かったですわ。頭で考えていた武器が次々この手で造り出せるんですもの。資金さえあれば、技術はいくらでも追いつくのだもの」


 だからわたくしのせいですわ、とオリンピアは締めくくった。


「ひとりで造っているものだから数は限られるのですけど。それでも時代を先取りした武器職人として何というか……わたくし、すっかり有名になってしまって」


「そりゃ、あんな銃を作れる人なら、有名になるのも分かります。だからってうちの村とは関係な……」


「あの傭兵隊がわたくしの顔を知っていたか、それとも単に持っていた銃を狙っただけかは分かりません。でも、あなたの村が襲われたのは、わたくしがあの場所に居たからですわ。狙われたわたくしが村の方に逃げてしまったから……だから。ああ、ロックに憎まれるのも無理はない。わたくしのせいでご家族は殺されてしまったようなものですもの」


「そんな……」


 彼女が《死天使シュテルベン・エンゲル》と呼ばれる所以は、自らの手で死を造り出すと同時に、周囲をもその波長に巻き込むからなのか。

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