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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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28話 疑惑と約束(1)

 全長675ミリ、銃身長226ミリ、重量2800グラム。強化プラスチック製の固定式銃床に、銃身はステンレス製。

 腰に銃身を固定して引金を引くと、毎分百発近い弾丸を発射出来る。それは、近距離戦闘用強力軍用銃として彼女が開発したものだ。


 オリンピアは銃器職人であった。

 銃の機関部はボルト部に細かい歯車を組み込んだ特殊構造を成している。弾丸発射時にガス圧で自動的にボルトを後退させ排莢、装填。つまり、連続しての発射を繰り返すシステムだ。

 射程距離三十メートル程度で連射を行って、半径十センチ程度の円内に集弾出来る性能を持つことを彼女は完成の条件としている。


 これ程の性能を持つ銃器を使いこなせる者は少ない。安心して預けられるのはレオンとモリガンくらいか。

大振りなこの銃を、小銃では物足りない弾丸小僧が愛用していることは知っていた。


 命中精度が高く、有効射程は百メートル程度と短い。ピストル弾薬を使用する為、跳弾などの二次被害が出にくいというところも、街中や建物で使用するのに適している。

 もっとも特殊部隊などと謳われていてもEDE.の活動といえば、大司祭や教会の警備という任がほとんどで、せっかくの銃の使用機会もあまりなかったわけだが。


 それでも備えることが抑止力になるのだと大司祭はいつも言っていらしたと思い返す。余所より良い武器を開発して、備蓄しておくこと。それに勝る抑止力はないのだと。

 その考えに賛同は致しかねたが、武器制作者である彼女は自身の仕事を守るために沈黙を保ったのだ。


 オリンピアは手を止めた。

 叔父の遺体が消えたという衝撃的な話に、悲しみと痛ましさが込み上げる。葬儀どころか、終油の秘蹟すら行われていないだろうに。

 血縁であるというだけで、それほど親密な間柄ではなかった。しかし彼女は大司祭たる叔父を尊敬していた。なのに目の前であんな死に方を……。


 小さく吐息を漏らして、彼女は再び手元に視線を移す。

 娼館に隠していた弾丸で僅かに息がつけるというものの、深刻な弾不足に陥っているのには違いない。だから彼女は弾丸を一つ一つ造っていたのだ。


 銃の種類に合わせて弾丸の素材と強度、長さ、中に詰める火薬の量を調整する。この微妙な匙加減を間違えると暴発の危険がある為、オリンピアの細い指は秤の上でひらめき、慎重に粉の量を調整する。


 弾の重量は8グラム。発射時の初速度は360/S(秒)である。1/2mv(2)(m=弾丸重量、v=初速度)の運動エネルギーで、弾丸が命中した一点に集中することになる訳だから、空気抵抗を割り引いたとしても単純計算して騎士の鎧の鉄板など貫通する威力である。これを取り敢えず二千発。造るのに半刻はかからなかった。


 窓もない娼館の一室なので外の様子も分からないが、夜半を過ぎた頃であろうか。

 どうせ空いているのだからと部屋を幾つか借りて、他の皆はもう休んでいる筈だ。

 オリンピアが椅子に座ったまま弾造りに専念しているのは、弾薬の補充を頼まれたからという訳ではない。眠れない。何かしていなければ不安でどうしようもない気持ちになるからだった。


 その時だ。扉の外で話し声が聞こえた。


「ここまでする必要がありますか」


「いや、万一という事があるだろ」


 押し殺した声での囁き。部屋の前の見張りを交代しているのだ。


 ──監禁と変わらないわ。


 オリンピアは溜め息をついた。何よ、この扱いは。わたくしが居なければ困るくせに。

 いえ、仕方ないことだと思い直す。今の己の立場を弁えるべきだわ。仲間にこんな怪しい立場の人間が居たら、自分だって同じ行動を取っただろう。武器の横流しにしろ何にしろ、造った当人が真っ先に疑われるのは無理ないことだ。


 弾丸二千発を二百ずつ、箱に詰める手つきは機械的だ。

 早くレオン造り方を教えて、自分はこの組織から抜けてしまいたい。それが本心だ。しかし抜けて何処へ? どこへ行っても自分は呪われたように銃器を造り続けるに違いない。

 《死天使シュテルベン・エンゲル》などという、ありがたくない名を付けられたのは、彼女が卓越した武器職人だからだった。


 武術の達人といったところで、一回の戦闘でそうそう何人も相手は出来ない。

 戦闘能力だけを考えれば男のレオンやモリガンの方が格段に上だろう。彼女が《死天使シュテルベン・エンゲル》などと呼ばれるのは死をばら撒く道具を造り出す腕を持っているからだった。


 箱を乱暴に積み上げる。表情は沈んでいた。本当は銃を造るのは嫌。初めてそう告げた相手はロックだった。母を殺され、暗い目をした男は冷たく彼女を見下ろしてこう言った。


「じゃあ、自分の腕を撃ち抜けよ」


 蔑むようなその声が、耳の奥に蘇る。オリンピアは双眸を閉じた。彼が今どこに捕まっているかは大体見当がつく。助けなくてはと思う。


 惹かれたわけではない。目の前で母親が無残な殺され方をし、更に父や兄たちまで失った悲劇故だとしても、あんな無気力な目をした男に想いを向けるなんてありえないと己に言い聞かせる。


 この感情は共に数日を過ごし、別れた直後にカトリック軍の手に落ちてしまった彼に対する義務感だった。叔父を殺した犯人や遺体の行方よりも、生きているロックの救出を優先させるのは当然のことではないか。


「それならば……」


 腹は決まった。オリンピアは立ち上がる。

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