14話 黒き刃の聖騎士(4)
「本ッ当に正面突破だな。作戦も何もないんだな」
言葉通り見張り台に飛び込み、真正面から銃弾をばら撒く弾丸小僧にヴェルツは我を忘れて叫んでいた。
「何ッ?」
気のせいだろうか。銀色の銃口がこちらに向きつつあるような。
「いや、本当に正面突破ですね。作戦とかないんでしょぅかね」
十四歳の子供に対して敬語なのは相手の迫力と、ヴェルツ自身の小心さの表れだ。慌てて言い直すと、レオンは手を止めずにこう返した。
「狭いし、作戦展開させるほど手もねぇだろ。戦力もたかが知れてるし」
「はぁ……」
たかが知れてる戦力ってのは自分のことですかね。そう言いたいところをぐっと堪こらえる。
民家の一室と変わらない狭さの見張り台の中には、突入前レオンガが言っていた通り二十人規模の部隊が常駐していた。装備は剣。飛び道具の心配はしなくていい。あいつら、馬鹿だから銃も弓も卑怯だと思ってるんだとのこと。全てレオンの情報通りだ。
砦入口に突っ立って、狙いもつけずにぶちまける銃の威力に、聖騎士達は戦わずして逃げ惑っていく。
「ヴェルツ!」
銃声の中、興奮した声でレオンが叫んだ。
「ここは任せろ。早く行け」
「えぇ……?」
い、嫌です。小さな声で呟いたのだが、銃声にかき消されてしまったようだ。或いはレオンが聞こえないふりをしているのか。
突入前、弾丸小僧はうきうきした様子で武器類の最終チェックをしながらこう言った。
「聖騎士詰所の奥に火薬の入った木箱がある筈だ。ヴェルツ、あんたはそれを取って来てくれ」
「何で自分が……」
その問いに答えはない。人を役立たず扱いするくせに、随分こき使ってくれるじゃないか。仕方ない。そう──。
「前向きに考えろ」
この場は彼の言うことを聞いておこう。さもなくば弾丸はこちらの身体で炸裂する。消極的な前向きさから、ヴェルツは砦の内部に飛び込んだ。
遠慮も何もなく頭上を銃弾が流れる。狭い室内だ。弾丸が壁や天井に跳ね返ってはヴェルツの身体を掠める。
「アチッ!」
その度に火傷に悲鳴をあげた。堪らず這って進んだわけだが、そのおかげというべきか、用心していた剣による攻撃は一切受けずに部屋の奥まで這い進んだ。
小窓の側に大きな箱が二つ並んでいる。見るからにきな臭い感じの木箱だ。
「これか」
レオンが意図的に天井に向けて銃を撃っているのは、これに当てない為かもしれない。この中いっぱいに火薬が詰まっているなら、側で火花が散った瞬間、大爆発を起こすだろう。
こんなもの抱えてどうやって戻ろうと思案しかけた時だ。不意に頼みの銃撃が止んだ。
「な、何やってんだ」
怒声はレオンのものである。はっとして振り返ったヴェルツは、その場で頭を抱えたい衝動に駆られた。部屋のど真ん中にキルスティンが突っ立っている。
「姉ちゃんは来るな。外で待ってろって言っただろ!」
突撃前も同じ台詞を言った筈なのに、人の話を聞かない姉はノコノコ入って来て騎士たちの前でへっぴり腰でキョロキョロしている。
「いえ、私も何かお手伝い……」
「お手伝いはいらねぇんだよ」
舌打ちと共にレオンが動く。さすがに姉目掛けて引金を引く事はないだろうが──いや、ありえなくもないぞ。ヴェルツは体を起こして姉の元へ駆け寄ろうとした。
その眼前に突如、黒い影が。凄まじい威圧感に顔を上げた瞬間、顔面すれすれを剛風が駆け抜けた。
「何っ……?」
強烈な圧力が肌を刺す。凄まじいまでの力と勢いで剣が振り下ろされ、ヴェルツはその場に凍り付く。
黒い刃。黒い柄。黒い手甲。黒い鎧。黒い兜。そして、黒い外套。全身黒ずくめの甲冑姿の騎士が目の前に立ちはだかっていたのだ。
「矢張り貴様か」
兜の下からくぐもった声が。敵意に満ちた固い声だ。
「掃除屋が何の用だ」
その視線はヴェルツではなく、入口の方に注がれている。
「部下を下がらせろ。ここで死んだら犬死にだ」
対するレオンの口調は固い。
「大司祭の命令だ。持ってる火薬を全て渡せ」
両者の間で立ち往生している姉を手招きして、ヴェルツはひとまず静観することにした。二人は見た目も対照的だ。黒の甲冑で全身を包んだ大柄な聖騎士に対して、銀髪の弾丸小僧は細身の身体に白い衣服。火薬よりずっときな臭い。両者からは対抗心と殺意の火花が弾けていた。
「猊下の命だと──笑止!」
時代がかった台詞を大音響で叫び、黒騎士は黒き剣を振りかざした。
「猊下が貴様等、掃除屋風情にそんな命を下す訳がなかろう。特殊部隊EDE.などとご大層な名だが、生まれも定かではなく、戦い方も卑怯な貴様等掃除屋ごときに!」
聖騎士は吐き捨てる。三度も掃除屋と言われ、レオンの表情もどんどん険しいものとなる。
「あんたに言えるか、この暗殺屋」
「何ッ!」
それは辛辣な一言だった。兜の中の顔は見えないが、黒騎士はひどく動揺した様子だ。
その黒き刃は、つまり月の光に反射しないように闇色に塗られているのだ。夜に暗躍するのが仕事であると宣伝しているような黒騎士の出で立ち。
秘部を突かれて、黒騎士の怒りが頂点に達する。
ガチャリ──踵を鳴らして、一瞬後には不遜な侵入者に詰め寄っていた。




