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その手に、エデンを~ドイツ教会軍特殊作戦部隊~  作者: コダーマ


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11話 黒き刃の聖騎士(1)

「聖騎士詰所を襲撃する」


「一人で?」


 ぜひそうであって欲しい。願いを込めてヴェルツが問う。


「イエ、三人で!」


 キルステインの甲高い声に、弟とレオンは瞬時に嫌な顔をして振り返った。

 何でこんな事態になったんだ。ヴェルツは改めて溜め息をついた。

 時をほんの少し遡ろう。

 ドイツ地方、商業都市マクデブルク──その街路。大聖堂を背にして。




「喋ったら殺す」


 大聖堂を出るなり、開口一番にレオンはそう言った。


「僕たちは秘密裏の組織なんだよ。教会の中でも知ってる奴は少ない」


「EDE.のことですか? ハイ、話しません。イエ、もぅ絶対に。滅相もない」


 不必要なくらい腰が低いのは、相手が全身に武器を抱えた弾丸小僧だからだ。

 ヴェルツは猫背の背を更に丸めた。自分は口が堅いですし、墓まで持っていく自信があります。


 でも……ちらりと横目で姉を見る。問題はこの人だ。底抜けに明るいと言えば聞こえは良いが、実際頭の回転が速いとは言い難く、しかも口が軽いときている。得意になって喋り倒すということも考えられる。


「もう一度言う。喋ったら殺す」


 いや、それは……。ヴェルツが何か言いかけた時だ。


「分かった。私、誰にも言わない」


 珍しく姉が毅然と言い切った。視線は先程から一心に銀髪の少年に注がれたまま。「この顔ときたら!」と、時々小さな声で呟く。本人は独り言のつもりらしいが、地声が大きいので周囲に筒抜けだ。言われた当人は眉間を寄せて、ひどく居心地悪そうにその視線を避けている。


「私、キルスティン。年は二十歳。うん、絶対言わないよ。約束する!」


「キルス……」

 面倒臭そうに言いよどむ。

「キル?」


 助けを求める視線を、ヴェルツは敢えて無視した。随分短縮されたもんだ。でもキルでいいよ、と姉は楽しそうに笑っている。


「で、お年は?」


「お年って……十四だけど」


 ずいぶん年下だね。でもそれもいいよ、うん。全然いいよ!


「いいって何が……」


 よだれを垂らさんばかりの露骨な態度は、我が姉ながら少々恥ずかしい。しかし……、ヴェルツは思う。

 小さい頃から思い付きで色々やらかしてくれる姉だったが、男に夢中になった覚えはない。相手が十四歳の子供というのは弟としては複雑な思いもあるが、いや、この際片付いてくれたら。そうか、姉ちゃんそういう趣味だったのか……。


「この状況で何ですけど、レオン……さん?」


「レオン=クロウ。でも、レオンでいいよ」


 この青年、口は悪いが意外と面倒見は良さそうだと踏んでヴェルツは続ける。


「身内が言うのも何ですけど、うちの姉ちゃん美人だし、性格も何て言うか……明るいし、よかったら嫁に……」


「随分前向きな評価だな。お前ら一体何なんだよ。どういう姉弟だ。状況分かってんのか」


 口癖を真似されてヴェルツは怯んだ。

 見下ろすくらいの体格なのに、レオンは怖い。いや、外観からして普通とは違う。腕に、背に、足に、腰周りにあらゆる種類の物騒な武器をぶら下げては、それをガチャガチャ鳴らして歩くその姿。


 せめて上着で隠せば良いのに、動きにくいのが嫌なのだろう。隠す意志を感じさせない白っぽい短い上着。武器類は全て銀色なので太陽の光を受けてキラキラ光っているし、人通りの多い都市の街路にその姿は異様なくらい目立つ。


 騒ぎがおきないのは、人々が日常それらの武器に馴染みがないから、危険性に無頓着という理由だけだろう。

 ある意味、住む世界が違うのかと姉の片付けを断念したヴェルツの前で、弾丸小僧は立ち止まった。


「この辺かな……」


 目の前には城壁。見上げれば、建物の二階分の高さはありそうだ。街の防護壁なわけだから、当然壁の上には見張りや攻撃時に使用する兵士詰所がある。この地点は詰所の窓からも、街路からも死角になった位置だ。


 人目を避けて街の外れに来たというわけでもないようで、レオンは背にしょっていた縄をヴェルツに押し付けた。長さがあるため、ずしりと重い。


「持ってろ」


 そして持っていた鉤状の金具をその先に装着する。



「……何してるんですか?」


 ヴェルツの問いに、弾丸小僧は「うん」と生返事で答えた。しかし青の眼はきらきら輝いている。ヴェルツは小さく首を振った。ああ、嫌な予感がする。

 少年は軽い動作で縄を投げて壁面に鉤を引っ掛けると、その先端をヴェルツに渡した。


「登れ」


「………………」


 泣きたくなってきた。何で自分がこんな……。愚痴ると即刻、姉に尻を叩かれる。


「早く登りなよ、ヴェルツ」


「何だよ、階段を使えばいいじゃないか……」


 大きな防護壁だから所々に階段が付いているのが見える。


「階段なんか呑気に上ってみろ。奴らに見付かる」


「や、奴らって?」


 レオンが手にしていた銃をジャキッと鳴らす。それ以上の躊躇は許さないとの脅しだ。

 ヴェルツは仕方なく縄に手をかけた。所々に作ってある結び目を足がかりに縄をよじ登るのは意外と骨の折れる作業だった。スカートの長い裾を足に絡ませながら、キルスティンも続く。


「ワッ!」


 姉の叫びに、彼女の視線を辿ってヴェルツも呆然とした。壁の上には細い通路が通してあり、街の外側に向かってヴェルツの肩くらいの高さの壁が続く。所々に小窓が造られていて周囲の様子が一望に見渡せる造りになっている。


 そこから覗いた先──エルベ川が南北に流れる平野一面に、大勢の兵士たちの胸当てや兜が陽光を受けてきらめいているのが見えた。軍勢が街を幾重にも囲んでいたのだ。

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