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3~121周目 ~変化~

 以降、俺はシナリオをクリアし続けた。あらゆるルートを探索し、おそらく全イベントを漏れなく一度は経験したはずだ。

 それでもこれだけ広大なマップ、まだ一度も通っていない道や拾ったことないアイテムもあるだろう。もっと慣れてきたら縛りプレイを試してもいいかもしれない。


 大丈夫。まだまだ全然楽しめそうだ。

 ただ正直、ここ数周はメインのシナリオより魔王を倒した後の方が楽しみになっていた。もちろん姫のことだ。

 姫とは帰り道のたびたくさん話をし、俺は少しずつ彼女のことを知っていった。


「姫は俺たちが来るまでは何をしてるんですか?」

「魔王城の捕虜部屋でひたすら寝てるわ。あなたたちが城下に到着した段階で魔王の間に連行され、磔にされるの」

「寝てるだけって、暇じゃないですか?」

「考えたら負けよ」


 姫は会うたびなぜか性格が変わってきているような気がする。まず、俺の下手くそな会話にも普通に付き合ってくれるようになった。


「……でさぁ、そのスライムったら仲間呼んでも誰も助けに来てくれなくて、眉毛下げてしょげてんの」

「ふふっ。可哀想だけど、なんか想像したらかわいいわね」


 冷血じゃなかったどころか毒舌も徐々に鳴りを潜め、ついには能面まで割れ落ちたらしい。

 スライムを想像してかわいいと言う姫の笑顔に、「かわいいのは君の方だ!」と叫びたい気持ちになる。


「ミライって好きな人いるの?」

「はあ!? いるわけないわよ馬鹿じゃないの! シナリオ中ほとんど魔王としか絡みないのに、彼に恋心を抱けとでも!?」

「あれ、一応俺が好きなんじゃないの? そう言ってくれるのを期待してたのに」

「それは設定上の話よ!」


 笑顔だけではない。怒ったり悲しんだり喜んだり……まるで、本当の人間のように感情を表す姫。

 そんな彼女の変化を見守ることに、俺はいつのまにかシナリオそっちのけで没頭していった。


 そして。


「……んでさ、ふざけて『父さんの仇ー!』って叫んで斬りかかってみたの。別に父さん死んでないのに。そしたらそのオーク、『お、俺じゃない! 本当に知らないんだ!』って涙目で敗走してってさ……」

「あっはっはっはっ!」

「あっはっはっはっ!? あなたそんな朗らかに笑うタイプだっけ!?」


 もはやシナリオを何周したかも覚えてない。おそらく一〇〇は超えてると思うけど。

 その頃にはもう、ミライは初めて会った時とは別人へと成り果てていた。

 誰だ、この快活に笑うただの美女は。


「ミライ、なんか性格変わった?」

「へ? ……か、勘違いじゃない? キャラの性格はクリエイターによって創られたものであって、変わるはずないと思うけど」

「いや、絶対変わったよ。前はもっとこう無愛想だったのに」

「だって、あの頃は私もいろいろ難しい時期だったというか……」

「ん? なんて?」

「なっ、何でもないわ! ほら、無駄話してないでさっさと歩きなさい!」


 誤魔化すようなミライの態度に、そういえば彼女は俺をこの世界に連れ込んだ黒幕かもしれないのだったと思い出す。


 だとしても、俺は別に彼女を責めない。

 現実の人生よりこっちの方がずっと楽しいし、仮にこの先シナリオに飽きたとしても、彼女さえ居てくれるならそれでいい。


 永遠に続く幸せな世界で、代わり映えしない日常に埋もれていくのも一興だと、この時の俺は本気で思っていた。


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