1周目 ~仲間~
町の出口でライトと呼ばれる最後の仲間を待つ。一体どんな男なのか気になるところだが、それ以前にまずは今一緒にいる二人について知らねばならない。
職業は何か? 技は? 戦闘スタイルは? パーティーメンバーの能力の把握はRPGの基本だ。
「えっと、戦士・ケン? 君の能力を教えてもらってもいいかな」
「なんだ、またとぼけてるのか? 冗談キツイぜ勇者様」
「おやめなさい戦士・ケン。勇者様は改めて我々の能力や武器を見つめ直し、最善の戦略を練ろうとお考えなのでしょう」
「な、なるほど。そこに気付くとはさすが魔導士・ハリー」
この魔導士・ハリーという男は、先ほどから何でも良い風に解釈してくれてありがたい。きっと聡明に見えるタイプの馬鹿なのだろう。
対して戦士・ケンのこの騙されやすい感じは、たぶん、馬鹿なのだろう。
内心とても失礼なことを考えながら、俺はケンの話に耳を傾ける。
「俺は見ての通り大剣使いだ。近接戦闘専門にはなるが、攻撃力はハンパねぇぜ」
「オーケー。ハリーも、教えてもらっていいかな?」
「私は魔法使いです。遠距離攻撃・仲間の回復・サポートなど何でもできますが、近接戦闘が苦手なのと防御力の低さは欠点ですね」
ありがちな勇者の仲間の能力のようで、俺は胸を撫で下ろす。悪評のわりに基本を押さえたオーソドックスなRPGなのかもしれない。
そうなると残りの一人、ライトの職業および能力も想像がつく。
盗賊か僧侶か。あるいは商人なんかもありそうだ。
「ライトはどんな能力を?」
「それは本人に聞いた方が早いでしょう。ほら、ちょうどやってきましたよ」
ハリーが指差した方向に目をやるが、それらしき人物は見当たらない。きったねぇ髪にだるんだるんのスウェットを着た「あれ? 部屋にこもっている時の俺かな?」みたいな男がフラフラ歩いているだけだ。あんなものが勇者の仲間なはずがない。
と思っていたのに、そいつは真っ直ぐこちらへと近づいてくる。嫌な汗がこめかみを伝う。
「いやーお待たせ! 家出る前にトイレに行ったんだけどさ、ウンコのキレが悪くて遅れちゃったよ」
「全く……相変わらずマイペースですね。ライト」
え、マジでこいつがライトなの? なんか遅刻の言い訳まで俺みたいなんだけど、大丈夫なのこれ。
というかこんなみすぼらしい格好の職業って何? 下手したらその職業の人全員敵に回しそうだけど。
「えっと、ライトの職業と能力ってなんだったっけ?」
「今更そんなことを聞くなんて、勇者様は今流行りの記憶障害系主人公にでもなったの?」
「何ソレ初耳。……別に、改めて聞いておきたいだけだよ。念のため」
「ふーん、まぁ良いけど。知っての通り、俺は小説家さ」
あー、なるほど小説家ね。それならまぁギリ納得……じゃなくて!
そんなの出てくるRPG見たことないけど!? 嘘でしょ、小説家がどうやって敵と戦うの!?
「俺はこの世界の創造主との契約により、原稿用紙に書いた通りのモノを即座に召喚できるんだ。食料や武器、あるいは戦闘用の屈強な化け物だって、描写次第で自由自在だぜ」
え、待って小説家強すぎない? どう考えてもチートじゃん。一人だけ世界観違うじゃん。ドン引きなんだけど。
「ただ、誤字や文法誤り、稚拙な表現等があると添削だけされて返ってきてしまうのが難点だな」
と思ったら使い勝手悪っ! てか、何、創造主とやらは編集者なの? あ、じゃあ契約って出版契約のこと? もう全然分からないよ……。
「ちなみに俺は今まで一度も添削されなかったことは無ぇ!」
あぁもう、ツッコミが追いつかない。けどこれだけは分かった。コイツ馬鹿だ。真性の馬鹿だ。
馬鹿×三。+俺。
こんなパーティーで果たしてミライ姫救出は叶うのか。俺は一人頭を抱えた。