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885周目 ~露見~

「では、空間移動魔法の詠唱に入ります。二〇分程かかるので、その間この防御魔法の中でじっとしていてください。空間移動が発動する瞬間になったら、姫にも魔法がかかるように俺の身体のどこかに触れてもらいます」

「うん。分かった」


 俺が拾ってきた防御力UP系のアイテムに身を包み、姫は大人しく頷く。

 大きく息を吸い、俺は詠唱を開始した。


「A↑B↓→→BA↓R←Z←↑↑CLLL→←A↓ZB↑→↓←CRABA↑←……」


 淡々と唱え続ける俺を姫が真剣な眼差しで見つめている。さっきまであんなに嫌がっていたのに、脱出すると決めた途端どっしりと肝を据えた姿はミライと似ている。


 頼むからこのまま何も起こらないでくれと、俺は心中ひたすら祈っていた。


 詠唱は半分ほど終わっただろうか。あと一〇分もすれば、ようやくこの世界から脱出できる。

 希望の光を視界の中央にハッキリと捉え、少しだけ緊張が解け始めたその時だった。


 突如、巨大な火の玉が襲来して防御魔法で作った結界を揺らした。


「きゃあっ!」

「チッ……気付かれたか」


 結界に弾かれた炎が立ち消え、白い煙だけがその場に残った。その煙も晴れていくと、そこに三つの人影が現れる。

 俺は心の声で詠唱を続けながら、その影に向かって話しかける。


「思ったよりはお早いお出ましだね。ケン、ハリー、ライト」

「ほぅ。ずいぶん余裕があるみたいだな、勇者様」

「あれは余裕ではなく強がりと言うのですよ。戦士・ケン」


 敵役っぽいセリフを返してくるケンとハリー。

 大トリに、まるでラスボスのようなオーラを纏ったライトが口を開く。


「えっ、何でこんな殺伐とした空気なの? 流れが全然わからない……」



 俺は一見冷静に振る舞いながら、背中からはドッと汗が吹き出していた。

 ハリーが言う通り、余裕なんて無い。


「な、なんであの人たちが攻撃してくるの? 私はお姫様なんだよ?」


 恐怖と困惑で姫の顔も引き攣っている。


「さっき言ったように、彼らは黒幕の手下なんです。この世界から脱出しようと企む俺たちを阻止するつもりなのでしょう」

「嘘……じゃあやっぱり、ススムが言ってたことは本当なんだ……でも、だからっていきなり攻撃してくるなんて」


 姫の言う通りだ。俺もまさか、「何をしているのか」と形式的に尋ねることすらせず、出し抜けに攻撃してくるとは思ってなかった。

 彼らは俺たちに対してすでに、不信感どころではない明確な敵意を向けている。


 なぜバレた? 確かにお花を摘むにしては時間がかかり過ぎかもしれないが、これまでもそういった体で開催したミライとの定例会議が長引くことは多々あった。

 だけどその時は一度も様子を見に来たり、怪しまれたりしたことさえ無かったはずだ。


 とにかく、このまま攻撃され続けたらおそらく一〇分も保たないだろう。とりあえず時間稼ぎをしなければ。


「いつ俺の作戦に気付いたんだ? バレないよう、かなり慎重に行動したつもりだったんだけどな」

「貴方の作戦とやらは知りません。ただ、旅立ちの際にさるお方から命じられたのですよ。『改変の日が近い。勇者から目を離さず、何か怪しい動きがあれば迷わず息の根を止めよ』と。まぁその改変の日というのも、私には何のことだかわかりませんがね」

「わからないのに従うのか? 大した忠誠心だな」

「もちろん。あの方は我々にとっての神ですから」


 クソっと小さく呟く。これは本気でまずい。

 要するに黒幕は、俺が八九二周目の近くで脱出のための行動を起こすことを予見していたということだ。

 だからいつバレたもクソもない。彼らは最初から俺を疑っていた。正直迂闊だった。


 そしてもっとまずいのは彼らの黒幕への忠誠心。黒幕の命なら意味がわからずとも従う盲目的な姿勢は、まるで黒幕の操り人形だ。そこに彼らの意志はない。

 となると、話し合いや説得でどうにかなるものではなさそうだ。


 ……まずいまずいまずい。どうすればいい? 何をしたら時間が稼げる? そもそもあと何分必要だ? クソッ、何も思いつかない……!


 策を考える間もなく、無情にも攻撃は再開される。


「きゃあぁぁぁっ!」


 正面からはハリーの魔法で生み出された火球、上部からも同じく魔法による落雷が防御魔法の結界を襲う。

 魔法同士の衝突による轟音が、姫の悲鳴すらも飲み込んでゆく。


「へっへっへっ! 正直、無抵抗な奴をいたぶるのは嫌いじゃねぇんだよな!」


 ケンがキャラに似合わぬ残忍なセリフを放ちつつ、右側から大剣で結界を斬り付ける。ガンッという鈍い音とともに結界表面に大きなヒビが入った。


「よし! ライトは左側から召喚獣で攻めな! 四方八方からぐちゃぐちゃにしてやろうぜ!」


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