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885周目 ~作戦決行~

 ついにこの日がやってきた。

 前の周までに詠唱は完璧に身体に染み込ませた。今なら余所事しながらでも唱えられる自信がある。


 最果ての洞窟はスルーし、作戦に必要なアイテムを順次集めていく。フェイクも数個混えつつ、速やかに、そして確実に。

 せっかくなので、いつかミライと話した現実世界へのお土産も回収しておくことにしよう。


 いつものように魔王を倒し、シナリオはこれから帰り道パートに入る。

 ……魔王と会うのもこれが最後だろう。ミライの支えとなってくれたこと、もう一度だけ心の中でお礼を言って魔王城を後にする。


 帰り道での話題は、予定通り「天気の話題→趣味の話→休日の過ごし方→結婚観について」の流れで。

 これまでにも何度かこれらの話題を散りばめて様子を見てみたが、俺の方から変なことを言わない限りはごく自然に会話が成立し、怪しまれるようなこともなかった。


 ここまでは順調過ぎるほど順調。

 嵐の前の静けさのような不気味な空気感の中、例の岩陰付近まで到達し、いよいよ作戦を行動に移す。


「姫。一緒にお花を摘みに行きませんか?」


 一瞬、時が止まったような静寂が訪れた。


「な、な、なんとハレンチなっ!」


 ハリーの絶叫がこだまする。それに対し、意味がわからないといった様子でケンが言う。


「花だぁ? 勇者様、このあたりは荒地ばかりで花なんてどこにも無いぜ?」

「何を言ってるのですか戦士・ケン! 『お花を摘む』とは『トイレに行く』ことの暗喩です! つまり、勇者様は女性である姫様を連れションに誘ったということ! ハレンチが過ぎます!」


 真っ赤になって怒り狂うハリーは無視し、俺はもう一度姫を誘う。


「お花を摘みましょう、姫。実はあっちの岩陰にヒマワリが沢山咲いているんですよ」

「えっ、ヒマワリ!?!? 行く行く!!!」


 予想通り、速攻で食いついてきた。ハリーが間抜けな声を漏らす。


「はえ? ほ、本当にお花を摘みに行くって意味だったのですか? 暗喩じゃなくて?」

「当然。こう見えて俺は紳士なんだ。……そういうわけで姫と俺はお花を摘んでくるから、みんなはここで待っていてくれないか?」


 俺の申し出に、ケンが待ったをかける。


「いや。勇者様がいるとはいえ、万が一姫様の身に何かあったら王様に申し訳が立たない。俺たちも護衛としてついて行こう」

「そうだよ! みんなで行けばいいじゃん!」


 やはり一筋縄ではいかない。が、このパターンも想定済みだ。

 俺は姫にこっそり耳打ちする。


「姫。実はヒマワリという花は、『馬鹿』が近づくと枯れてしまうという非常に繊細な性質を持っていまして……」

「嘘!? そうなの!? ……前言撤回! やっぱりあなたたち三人はここで待ってなさい! 絶対ついてこないで!」

「ええっ!? なんで!?」


 俺は内心でガッツポーズを決める。

 やはり姫もこの世界の人間だ。もし本当にヒマワリにそんな性質があるなら、姫が近づいてもアウトだろう。


 とにかく、こうして狙い通り姫と二人きりの時間を確保できた。

 久しぶりの岩陰にはちゃんとヒマワリは生えており、姫はニコニコと嬉しそうにそれを眺めている。

 俺は覚悟を決め、息を小さく吸う。


「姫。一緒にこの世界を脱出しましょう」

「……は?」


 驚きと困惑の表情で姫が振り向いた。


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