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686~701周目 ~一人~

「姫。あなたは本当にお綺麗ですね」

「やだ、恥ずかしいよススム……」


 帰り道。俺の言葉に姫はそう応え、嬉しそうに顔を赤らめた。

 まぁ、普通にかわいいとは思う。どこぞの毒舌冷血能面姫よりはまともな反応だ。


 だけど、俺が求めていたのは「キッモ」の一言。どれだけ望んだところで、その言葉をくれた彼女とはもう会うことはできないのだけれど。


「どうしたの、ススム。難しい顔してるよ?」

「別に、何でもないよ」

「本当に? まるで『友達はみんな薔薇色のキャンパスライフを満喫してる中で一人寂しく勉強してる浪人生』みたいな顔だけど」


 どんな顔だと一瞬思ったが、あながち間違いではないのかもしれない。

 一度目の試験に落第した俺は、ラストチャンスに向けて引き続き暗記に取り組んでいる。


 ミライの意志を無駄にしないためにも絶対に脱出しなければならない。それが俺にできるせめてもの贖罪であり、恩返しだ。 


 姫は不機嫌そうな顔で言う。


「そんな顔する意味がわかんない。パパの城に帰ったら、あなたは私と結婚して次期国王になれるんだよ? 約束された成功が待ってるのに」


 約束された成功。結末の決まった人生。残念ながら俺は、そんなものに意味は無いと知ってしまった。

 いくら顔がかわいくても、そんな価値観で生きている姫には女性として少しの魅力も感じない。


 まぁそういう性格設定をされているだけのゲームキャラに何を言っても無駄だし、そもそもシナリオの都合上彼女の夫になる日なんて来ないのだが。


「あっ! もしかして、長旅でムラムラしちゃったとか? だったら私が何とかしてあげるよ。……あそこの物陰行こ?」

「だっ、大丈夫です。お気遣いなく」


 胸元が見えそうな屈んだ体勢から上目遣いで挑発する姫を、俺はなんとか振り切る。


 べっ、別にドキドキなんてしてないんだからっ! だって、同じ顔でもミライとは全然違うし! ミライの方がずっとカワイイし! 六:四ぐらいで!


 なんて言ったら、君が突然現れて「馬鹿! スケベ!」なんてつっこんでくれないかなぁとか、つい考えてしまう。そんなことあるはずないのに。

 ……会いたいよ。ミライ。


 これまで覚えた範囲とそれにかかった時間から推測するに、さすがにあと二〇〇周近く時間があれば暗記は問題無さそうだ。

 なんなら何十周か残して覚え切ってしまいそうなペースだが、脱出は記憶を失くすギリギリに決行することにし、それまではしっかり復習を繰り返して作戦成功を確実なものとしよう。


 万が一周回の数え間違いがあると怖いので、決行は余裕を持って八八五周目と決めた。

 また、多少なりともシチュエーションが変わったわけだから、決行当日の流れの微修正も必要だろう。


 他にもいろいろと考えたいことがあり、そう思えばまぁまぁ忙しいような気もする。

 が、おそらく実際は、いつかのように無限ループで心が摩耗する毎日となるのだろう。


 当時はミライが居て、それでもなお発狂しそうだったのに、ミライが居ない今、果たしてそんな拷問のような日々に耐えられるのだろうか。


 不安がないと言えば嘘になる。だけど、あの頃と違って今の俺には希望がある。現実世界に戻り、人生を続きからはじめるという輝かしい希望が。


 辛い時は、あの日のミライの温もりを思い出しながら、現実世界に戻った後の人生設計でも考えよう。

 そう思うだけで、なんとかなるような気がしてくるから不思議だ。

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