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592周目 ~馬鹿、鈍感~

「えっと……つまり今ミライは苦しくないの? こんな八方塞がりな状態だけど」

「少なくとも、全て諦めて死んだように生きてたあの頃よりは幸せよ。何度も言わせないで」


 頬をほんのり赤く染めて言うミライを見て、俺は思わず「良かったぁ」と漏らした。


「何も良くないわよ! 私は最近ずっと『あなたが絶望しちゃったらどうしよう』と思って気が気じゃなかったのに。そんなお門違いな罪悪感を抱えてただなんて、ここまで馬鹿とは思わなかった!」

「そうじゃなくてさ。俺、いつもミライに助けられてるのに逆にミライには迷惑かけてばかりで、何もしてあげられてないと思ってた。だから、ほんの少しはミライの役に立ててたんだなぁと思って、安心した」

「……はぁー」


 俺の言葉に、ミライはいよいよ呆れたといった様子で大きな溜息を吐いた。


「……あなた、実はライトより馬鹿なんじゃない? それに鈍感」

「え」


 ライトより馬鹿はさすがに効く。

 ささやかながら俺もミライを支えられていたのだと知り魔王への嫉妬心をようやく払拭できたと思えば、今度は愛想を尽かされるピンチ到来だ。

 頭を抱える俺に「一度しか言わないわ」と柔らかな声が届く。


「好きよ。ススム」

「シュールレアリスム?」

「いやその聞き間違え方がシュールよ。わざとやってるの? ……好き。LOVEのことよ」


 俺は口をあんぐり開けて固まった。好き? LOVE? ミライが俺を?

 ゆっくりとその意味を咀嚼し、理解した瞬間、火を吹きそうなほど顔が熱くなった。


「エェーーー!!!」

「うるさい。これだけ一緒に居たら普通分かるでしょ。鈍感」

「えっ、だって、えー!」

「うるさい! 話が進まないから落ち着いてよ!」

「いやだって! まさか両想いだったなんて思わなかったから……」

「エェーーー!!! 両想い!?!?!?」


 今度はミライが叫び、白い肌が茹で蛸のように真っ赤に染まる。

 そっちこそ、普通分かるでしょ。俺は心の中でツッコミ返した。


 それからしばらくはチラチラとお互いを盗み見ては、頬を染め、顔を手で覆うという行動を延々と繰り返し(八九二バグが起きなくて良かった)、ようやく落ち着いた頃にミライが再び口を開いた。


「ま、まぁとにかく。ほんの少しどころか、あなたは私の大きな支えなの。そして、あなたが私を支えてくれるように、私もあなたを支えたい。

 だから『一人で』なんて寂しいこと、もう二度と言わないで。私たちパートナーじゃない。そうでしょ? ススム」


 今のパートナーは、そういう意味のパートナーだよな? 俺期待しちゃうよ? いいんだな?

 ならもう絶対、何が何でもこの世界から脱出するよ? 嫌って言っても無理やり連れてくからね?


 ミライの気持ちを知った途端、俺の頭は急速に回転を始める。

 まるで、今までずっと大脳の働きを阻害していた遠慮という名の蓋が外れたように、シナプスが活発に動き出す。


 俺は瞬時にある答えに辿り着いた。


「ミライ。俺に一つ作戦がある」

「えっ、ほんとに? 教えて。どんな作戦?」

「セレブの勝負水着を着用しながら、甘美なる黒き刀を咥えてくれ。そうすることで俺のエクスカリバーの威力は最大になる」

「最っ低! マジで気持ち悪い! 記憶失くせ馬鹿!! ばーか!!!」


 ミライが俺の胸をポカポカと叩く。

 さっきまではあんなに感情を読み取るのに苦戦していたというのに、今ではこの小さな拳を通して、彼女の全部が胸に流れ込んでくるような気がした。


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