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592周目 ~曖昧なビジョンの果て~

 五九二周目。ミライが俺より二〇〇周多いと仮定すると、タイムリミットまで残りちょうど一〇〇周だ。

 ただし二〇〇というのはあくまで概算であって、できれば余裕を持って脱出を決行するべきと考えると、実際に残された時間はもっと少ないだろう。早急に作戦を立てるため、せめてその糸口だけでも見つけねばならない。


 もはや一刻の猶予も無い中、今日も、めぼしい成果は得られなかった。今日どころか、ミライとパートナーを組んでからここまで二六七周、何一つ脱出に繋がる発見はできていない。


 見通しが甘かった。「いつかなんとかなるだろう」という曖昧なビジョンの元のらりくらりと過ごし、ギリギリになってようやく焦った頃には「時すでに遅し」だ。


 また、就活の時と同じ失敗の繰り返し。今までの人生から俺は何も学ばなかったのか。

 こんな行き当たりばったりの脱出同盟にミライを無理やり引き込んでしまった事が申し訳なくて、最近ではまともに彼女の顔を見ることができないでいた。


「ススム、最近のあなたちょっと暗すぎよ。……まさか、『絶望した』なんて言わないわよね?」

「……別に絶望してないし、諦めるつもりもないよ。ただ、自分が情けないんだ」

「情けない?」


 心配したような声色でミライが尋ねる。


「俺はたぶん、世界中探せばどこかに出口ぐらいあるだろう。万一無くても、何か役に立つアイテムぐらいは見つかるはずだって、軽く考えてたんだと思う。そんな根拠どこにも無いのにさ。 そして一年半近く探索に時間をかけた今、俺たちは何一つ得られちゃいない。『絶対に現実世界に帰ってみせる』なんてカッコつけた結果がこのザマだ」


 吐き捨てるように言うと、ミライは悲しげに眉をハの字に曲げた。


「探索は最優先ですべきことだったし間違ってないわよ。というか、他にできることも無かったし。それに見つけたアイテムが役に立たないと決めつけるのも早計だわ」

「だとしても、無責任な提案をする前に俺一人で実情を確認すべきだった。……結局さ、あの時ミライが言った通りだったんだよ。俺はこの世界のことをよく知らなかったから、簡単に『脱出しよう』なんて言ってしまったんだ。そして俺のその幼稚で楽観的な考えが、君を巻き込んだ」


 ミライはただ黙って俺を見てくる。これ以上言ってはいけないと思うのに、溜め込んだ葛藤が口から雪崩のように溢れ出て止まらない。


「俺一人だったら自己責任で済んだ。ありもしない希望に縋ったまま最後まで脱出できず終わっても、それで満足だろうから。だけどミライを巻き込んだ以上そういうわけにはいかない。俺の軽い気持ちでした提案のせいで、君はまたこうして終わりのない絶望と向き合うハメになってしまった。俺が君を巻き込まなければ、君はあのまま心穏やかに過ごせたはずだったのに」


 ようやく言葉の雪崩がおさまると、嫌な沈黙があたりを漂った。岩陰のヒマワリも落ち込んだようにこうべを垂れている。


「ふざけないで」


 ミライがゆっくりと口を開いた。


「さっきから聞いてれば巻き込んだ巻き込んだって、冗談じゃないわ。確かにあなたの考えは楽観的よ。でもそんなのは承知の上で、私はあなたの提案に自分の意志で乗ったの。その方が絶対後悔しないって思ったから。だからあなたに申し訳ないなんて思われる筋合いは無いわ」

「けど……ここまで脱出が絶望的だと知ってたら、俺は君を誘ったりはしなかった。君を苦しめるくらいなら俺は一人で……」

「だからさぁ!」


 突然ミライが声を荒げた。彼女が初めて見せる本気の苛立ちに俺は戸惑う。


「なんで私が今苦しんでる前提なワケ!? 勝手に人の心を決めないでよ! あなた前に自分で『苦しみさえ愛おしい』って言ったじゃない! 私だって同じよ! たとえ脱出が絶望的だとしても、あなたと一緒に夢を見ながら生きる今が愛おしいの! 幸せなの!」

「愛おしいっ!? 幸せっ!?」


 都合が良いところだけ切り取り、そんな場合じゃないのに胸がギュッと掴まれたような気持ちになる。


「あなたは楽観的で、馬鹿でキモくてカッコつけでスケベでそのくせ女慣れしてない感モロ出しの残念な人だけど、」


 と思ったら今度は唐突なディスり。どこを切り取っても喜べない言葉に、胸が掴む通り越して握り潰される。


 所詮女慣れしてないせいか、俺はミライの感情を読み取るのに苦戦していた。女心って難しい。

 ミライが吠えるように言う。


「私はそんなあなたのおかげでもう一度立ち上がれたの! 感謝こそすれど、巻き込まれたなんて思うわけない! 見損なわないでちょうだい!」


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