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326周目 ~疑惑~

 ミライとパートナー(意味深)になった俺は、ひとまず王様の城から魔王城までの道のりを探索することにした。世界の出口探しのためだ。

 これまでも散々歩き回ってきたが、今後は更に徹底的に、しらみつぶしに。ミライの思いも背負い、今の俺はやる気に満ち満ちている。


 ただしこれだけ広大なフィールドを隈なく見るとなると少なくとも一〇〇周以上はかかってしまいそうなので、その間ミライの方でもいろいろと策を練ってもらうことになった。

 出口だけでなく他の手掛かりや役立ちそうなアイテムも探しつつ、その結果を逐一彼女に報告し、一緒に脱出のための糸口を探っていくこととする。


 まず今日は、この世界に来て初めて使ったルートの探索だ。テントを張って寝泊まりしたり釣った魚を焚き火で焼いたり、そんなことではしゃいでいたのが遠い昔のことのようだ。


 ソレを見つけたのは当時よく釣りをして楽しんでいた河原だった。川辺に転がる砂利の中に、到底自然物とは思えぬ大きくて真っ黒な石ころが混じっていた。

 こ、これはひょっとして……巨悪である黒幕を表しているのでは!? ということはもしかしたら、黒幕や世界の出口に繋がる大きな手掛かりなのかも!


 石を穴が開くほど観察してみる。すると、表面に小さな突起物を見つけた。

 押してみよう。ポチッと。


 激しい地鳴りがして、目の前の川の水が急速に干上がっていく。まさかの展開に俺は唖然として固まった。え、嘘でしょ? いきなり見つけちゃった?

 干上がった川底には地下へと続く階段が隠されていた。俺はふぅと大きく息を吐き、ゆっくりと階段を下っていく。


 階段の先は埃臭い小部屋だった。中央には木製の台座があり、上に先ほどの石と同じような黒い物体が置いてある。


「勇者様! そっ、それはまさかっ!」


 突然の声に心臓が止まりそうになる。振り向くと、ハリーが台座の上の物体を指差して立っていた。

 いつの間に着いてきたのだろうか。


 とりあえず手に取り、眺めてみる。先ほどの黒い石とは違うようだ。甘い匂いがするし、小さな粒々に覆われている。

 ……というかこれ、アレだよな?


「ハリー、これ何か知ってる?」

「それは…………伝説の黒ゴマ団子です!」

「……へー」


 案の定の答えに興味を無くした俺に、ハリーが嬉々として説明し始めた。たぶん、今の俺は冷血な時のミライと同じ目をしている。


「その黒ゴマ団子を食べると一時的に魔力が増大し、繰り出す魔法の威力が跳ね上がるのです! しかもメチャクチャ美味しい! 国産黒ゴマの芳ばしい香りが食欲をそそり、もっちりした生地の中には最高級小豆で作ったこし餡がふんだんに盛り込まれてるのですが決して多すぎるということはなく、三つの食材の絶妙なバランスが織りなす魅惑のハーモニーに食べた者は皆酔いしれ…………ってちょっとぉ! 何てことするんですか勇者様ぁ!」


 思わず団子を地面に叩きつけてしまった。全く、出口かと思って期待して来てみればとんだ食わせ物だった。二つの意味で。

 感情的になって食べ物を粗末にしてしまったことだけ少し反省しつつ、「三秒ルール!」と叫びぺちゃんこの団子を拾うハリーを置いて俺は部屋を後にした。


 河原に戻るとケンが待っていた。


「なぁ勇者様。いつまでこんなところで油売ってるんだ? いい加減、姫様を助けに行かないと」

「いや、できればもうちょっとこのあたりでレベル上げを……」

「もう十分だろ。それとも、本当は何か探し物でもしてるのか? 言ってくれれば俺も協力するぜ」

「……まさか。ケンが十分だと言うなら、そろそろ魔王城に向かうとしよう。早速出発の準備だ」


「そうか。ならライトも呼んでくる」と言い、ケンは踵を返した。


 彼らのことは信用するな。

 ミライからの命を思い出し、俺は上手く誤魔化せたことに安堵する。

 

 元々は、ミライが魔王に事情を話して結託したように、ケンたちにも協力を仰ぐつもりでいた。

 それが一転、こうして脱出の目論みを悟られぬよう行動しているのは、ミライが提示したとある疑惑のためだ。


 三二五周目。長い長い『お花摘み』を終えた俺たちは、遠くで待機しているケンたちの元へ向かっていた。

 途中、ミライが「そういえば、」と口を開いた。


「ススムさっき、勇者には仲間もいる、って言ったわよね?」

「うん。アイツら、馬鹿だけど気のいい奴らだし、きっと力になってくれるはずだよ。馬鹿だけど。あぁでも、記憶が残らないならシナリオのたびに事情説明はしないといけないな。

 ……あれ? てか今思ったけど、ライトの小説家の能力で出口作れるんじゃないか? どう? 試してみる価値はあるよな? よし、じゃあ合流したら早速事情を話して……」

「たぶん、やめておいた方がいいと私は思う」

「え?」


 ミライがぴしゃりと遮った。遠慮がちな言葉のわりに有無を言わせぬ強さを感じ、スッと背筋が伸びる。


「な、なんで? 我ながら結構良い作戦閃いたと思うんだけど」

「さっき話したこと覚えてる? 『ウソやハッタリで勇者たちを騙して仲間割れするよう誘導し、簡単に勝てたことがあった』ってやつ」

「覚えてるけど、それが? というかさっきも思ったんだけど、ウソとハッタリだけで勇者倒すって凄くない? 具体的にどうやったの?」

「そうね、じゃあまずはどうやって騙したのかから説明するわね」


 そう言ってミライは人差し指をピンと立てた。


「戦闘開始直後、まずはケンに対して『勇者があなたのこと陰で馬鹿って言ってたわよ』と大声で伝えた。そしたら彼は引くほどブチ切れて、その後勇者との連携がグッチャグチャになってたわ」


 えぇー……ケン……いくらなんでもそれは……仮に悪口が事実だとしても擁護し辛いよ……だって本当に馬鹿なんだもん。


「次はハリー。戦闘中後方待機してるところにこっそり近づき、『賢いあなたならとっくに気付いているわよね? 真の悪は勇者だということに』と伝えた。彼は『ももも、もちろん気付いてましたとも!』と言って、勇者の戦闘時のクセや苦手な食べ物、コンプレックス、言われて一番傷付く言葉に至るまで事細かに教えてくれたわ」


 ……ハリー……もはや聡明に見えるタイプですらない、普通の馬鹿だよ……彼に常識人キャラは荷が重過ぎる。


「ライトは、その、戦闘中ずっと『また添削された! チクショー!』って言ってるだけだから放置してたけど、」


 ……ライト…………ライトォ。


「とにかく、そんな感じで私たちは勇者を倒した。その後の二戦目でウソとハッタリが通じなくなったのはさっき話した通りだけど、実はもう一つ、一戦目と変わったことがあったの」

「え?」


「二戦目開始直後。まずは一戦目と同じように磔台の上から大声でケンを揺さぶろうとしたけど、何度も言った通りそれは失敗に終わったわ。だから次はハリーを揺さぶるために磔台から降りて近づこうとした、その時、ハリーが私に向けて攻撃魔法を打ってきたの」

「……は?」

「おかしいわよね。だって、彼らは私を助けに来たのよ? 私たちは皆キャラ設定やシナリオに沿った行動しかできないはずなのに、どうして彼は私を攻撃できたの?」

「あっ」


 ミライが攻撃されたという事実に血が昇り一瞬気が付かなかったが、本当だ。確かにおかしい。

 どうして、と話の先を促す。


「思うに、彼らにはキャラ設定とシナリオの遵守よりも優先度の高い命令が、黒幕によってプログラムされている。例えば『黒幕にとって都合の悪い行動を取るキャラが居た場合、力尽くでその行動を阻止しろ』とか」

「どういうこと?」

「一戦目の戦いで私の『磔台から降りる』という行動を見た黒幕は、それを『自身にとって都合の悪い行動』だと認識した。なぜならそれは、彼の望むシナリオを書き換えようとする行動だったから。だから二戦目では磔台を降りようとした瞬間、黒幕の息のかかったハリーがそれを阻止した。そうは考えられないかしら?」

「うーん、深い」

「ちょっと。本当に理解してる?」


 なかなか難しかったが、要するに、俺たちの起こそうとしている行動が黒幕にとって都合が悪い行動だとバレた場合、ハリーたちから物理的な攻撃で阻止される可能性があるということだろうか。


「直接戦闘を見ていた彼らのうちの誰かが黒幕なのか、もしくは彼らを通して遠くから戦闘を見ている黒幕が別にいるのか、それは正直わからないわ。ただおそらく、彼らが黒幕と深い繋がりがあることだけは確か」


 以前、小便に行くフリをして逃げ出そうとした時、俺も俺もと言ってゾロゾロ着いてきたことを思い出す。

 やはりあれは俺を監視していたのだろうか? そう思うと恐怖で小さく身震いする。やばっ、なんか急に尿意が。


「私の見立てが合ってるとは限らないけど、もうそうなら彼らは仲間なんかじゃない。むしろ欺かなければならない敵。彼らの前で、脱出を目論んでいることを疑われるような行動はしちゃいけない。事情を話して協力を仰ぐなんて、もってのほかよ。彼らのことは決して信用しないで」


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