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325周目 ~もう二度と~

「現実世界にいた頃、」


 涙が落ち着いた頃合いで、俺は腕の中のミライに語りかける。


「俺もミライと同じような気持ちになったことがあるんだ。まぁ全然就職が決まらなかったからっていう、同じというには失礼なぐらい情けない理由なんだけどさ」

「そうなんだ……でも、失礼なんてことないわ。人の苦しみを比べることなんてできないもの」


 ミライはそう言って無理矢理笑顔を作る。こんな時でも気遣いを忘れない彼女の優しさに、抱き締める腕に自然と力がこもる。


「確かにあんな気持ちは二度と経験したくないし、もしそうなったらと思うと足が震えそうなほど怖い。だけど心配しないで。俺はもう二度と、絶望したりしないから」

「え?」

「あの日。絶望して諦めてしまったせいで、こんな世界に閉じ込められるハメになった。そのおかげで気付けたんだ。諦めたら、そこで全て終わってしまうんだって。月並みな言葉だけどさ」

「諦めたら、終わり」


 ミライは復唱し、上目遣いで俺を見た。


「俺、人生って一度ミスしたら終わりのクソゲーだと思ってた。でも本当は違ったんだ。俺の人生を終わらせたのは、一度のミスで諦めてしまった俺自身。

 逆に言うと、諦めなければ何度でも挽回できるのが人生。もちろん苦しいことはあるけれど、こんな世界にいる今、その苦しみさえ愛おしい。

 だから……俺はもう二度と諦めない。諦めないから絶望だってしないよ。最後の最後まで足掻いて、絶対現実世界に帰ってみせる」

「でも……もし、本当に脱出できたとして、その後はどうするの? 就活で悩んでたんでしょ?」


 ミライの瞳が揺れる。希望に似た細く頼りない糸を垂らされ、掴んで良いものか逡巡しているようだ。


「選り好みしなければいくらでも就職先はあるさ。とりあえず雇ってくれるところに就職して、そこから少しずつ理想に近づいていくよ。諦めずに。

 だからミライも一緒にもう一度夢を目指そう! ミライの夢は、ミライが諦めない限りは終わらない。開くんだろ? こじんまりとしたオシャレなカフェをさ」


 彼女の瞳の揺れが止まった。そこには確かな決意が宿っている。


「……私たち、まだ諦めなくてもいいのね? 本当に」

「当たり前だろ? いくら行動が制限されても、心までは制限されない。俺たちのものだ。

 それに勝算が無いわけじゃない。シナリオ中は魔王城から出られない姫と違って、勇者は広範囲に渡って行動できる。ミライがまだ探せてない城の外で出口を見つけることができるかもしれない。

 それに勇者には仲間もいる。事情を話せば魔王のように協力してくれるかもしれないよ。俺を勇者役にしてしまったことが、黒幕とやらの最大の失敗さ」


 ふふと笑ったミライの表情は、久しぶりに晴々として見える。


「カッコつけちゃって、あなたのクセに生意気。……いいわ。乗るわよ、その提案」

「へへ。じゃあこれからは婚約者改め、ともに脱出を目指すパートナーってことで。あと俺はススムだ。パートナーになるなら、他人行儀な呼び方は寂しいかな」

「ん、わかったわ。ススムとミライなんて、良いパートナーになれそうじゃない。ね、ススム」


 自分から言い出しておきながら、ミライにパートナーと呼ばれるのは照れ臭くて、顔が熱くなった。


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