表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/65

8話

その日の夜。セレーネはいつものように部屋で呪いを解く研究をしていた。

研究のための書庫への出入りはリュシュリシュに許可をもらっており、参考になりそうな書物を別邸に持ち込んでは実験を行った。

実家であるルーンナイト伯爵家の書庫よりも蔵書は多く、呪いのこととは別に目新しい魔法に心を奪われたりしながらも、ユリウスの呪いを解くために、必死で実験を繰り返した。


「これもダメだ……やっぱり、魔女の呪いを取り除けない」


昼間はユリウスと共に過ごし、夜間は呪いを解く方法を探す日々を繰り返す。

時間はたっぷりある。そう、思ってはいるが、セレーネは無意識に焦っていた。

それは、ソルネチア公爵家のためでもあり、ユリウス自身のためでもあった。

呪いが発動してから、彼は部屋の外に出ていない。それは彼が他者を思ってのことだった。でも、彼は自分自身を大切にしていない。何よりも相手を優先する。だからこそ、呪いも肩代わりした。本人は気づいていないかもしれないが、それは自身を殺すことだ。だからセレーネは、その行き場のない彼のうちの部分を優しく触れ、慰める。それが昼間のスキンシップだった。

昼間は彼のために彼のそばにいて、夜間は彼のために彼のそばを離れて必死に彼の呪いを解く実験を行う。

セレーネの今の行動は全て、彼のためのものだった。


「喉が渇いた……少し休憩を……」


ふと、その時セレーネは思った。

実験のためにユリウスからもらった、魔女の呪いが含まれる血液。

これを実験用に捕まえた生き物に与えるとすぐに苦しみ出して死んでしまった。魔女の呪いによる影響なのか、それとも別の何かなのかはわからない。


「……モルモットばかりに、苦しい思いをさせるわけにはいかないわよね」


ちょっとの好奇心。にしては表情はどこか未知に対面することへ期待で、口元が緩んでいた。セレーネは真っ赤な血の入ったグラスを手に持ち、ゆっくりと口に持っていき、不安や恐怖を抱きながらもそのまま一気に血液を飲み干した。







アイシテル







手に持っていたグラスは地面に落ちて砕け、セレーネはそのまま血を吐いて床に膝をついた。

心臓が激しく脈を打ち、ドクドクと痛いぐらいに動く。

それを必死に抑えるために必死に息をした。

徐々に脳が冷静になり始め、自身の吐き出した血を見る。

吐き出した血の量は、飲み込んだ血液と同じ量。完全に拒絶されて全て吐き出されてしまっていた。

そして聞こえた声。あれは魔女のそれだった。

愛し()な、温かみのある言葉だった。

なのに、その中身はひどく澱んでいた。


嫉妬

憎悪

独占

承認

執着

支配

依存

殺意


魔女の抱く狂愛が、セレーネの体に一気に襲いかかった。

モルモットたちの死の原因は、もしかしたらこの愛を受け止めきれなくて死んでしまったのかもしれない。


「こんなもの……本当に愛と呼んでいいのか……」


明らかな別物。自分たちが知っている名のある感情とは別の、新しく生まれた名もない感情。

メンタルが一気に持っていかれたセレーネは、それ以上実験をする気分になれなかった。片付けを軽く済ませた後、彼女は自身の部屋のベッドではなく、そのままユリウスの部屋へと向かった。

あんな感情をぶつけられたせいか、ひどい不安感に襲われ、1人でいるのが怖くなった。

迷惑と思いながらも、彼女はユリウスの部屋に足を運ぶ。ノックも忘れ足を進めた先、いつものように体を巻いて眠る彼のそばに体をおいた。

ひんやりとする鱗。でも、僅かに感じる暖かさに不安が徐々に消えていく。


「ユリ様……」


血液を飲んだだけでセレーネは疲弊してしまっているが、実際に呪いを受けている彼はもっと苦しい思いをしているかもしれない。

あんなものは愛じゃない。あれは、一種のエゴの塊でしかない。

セレーネはゆっくりと目を閉じながら、絶対に呪いを解いてやると心に決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ