75話
言われた本人も。隣にいたリュシュリシュも、その発言に目を丸くした。
本来。宝石眼は王の証。ニルヴァルドはかつての王の証を再びこの国に輝かせたいと思っていた。そのため、宝石眼保持者を探していた。もし、見つけた保持者が平民の場合は、養子として迎え入れ、教育したのちに王にする予定だった。
しかし、運良く貴族であるセレーネが宝石眼を持っていた。しかも、希少な女神と同じ色を持つアメジスト。その上彼女自身も優秀な人間。少し王族としての教育を受ければ、立派な王になれるだろう。
「不安もあるだろう。しかし、そこはしっかり私たちがサポートする。なんなら、殿下の婚約者をロサ嬢からセレーネ嬢に帰る」
「ニルヴァルド!言葉がすぎるぞ!」
「リュシュリシュ、これは国のための提案だ。確かにお前の息子と彼女が愛し合っているのも知っている。殿下とロサ嬢の仲が良いのも知っている。しかし、彼女以上に価値ある存在はこの世に存在しない」
国のためならどんなに愛し合っていてもそれを引き裂くのを躊躇わないニルヴァルド。そんな彼の考えを、リュシュリシュが認めるはずもなく、膝の上に置かれた拳にグッと力が込められていく。
しかし、考えるまでもなかった。セレーネは一つ呼吸を吐き出して、首を横に振った。
「お断りします。私は、王族になる気はありません」
「なぜだ」
「公爵様が私は高く評価してくださるのはとても光栄なことです。しかし、私にはすでに愛する男性がいます。彼と、生涯を共にすると決めています。だから、私は王妃になる気はありません」
ニルヴァルドはここで引くべきかとも悩んだ。彼女を王妃にするのは別の理由もあった。それは、三大公爵家の力のバランスだった。
セレーネは魔法の才能に恵まれている。それだけじゃない、彼女の兄2人も優秀な人材で、武術に優れている。現に次男であるサイラスはアルヴィス護衛騎士。
そんな兄たちに、セレーネ自身も鍛えられている。
現状、ソルネチア家の戦力が群を抜いて高い。彼女を王妃に据えることで、三大公爵家のバランスを整えたいとも思っていた。
「それに、きっと私はただの傀儡になってしまうでしょう」
「私がいるのだからそんなことにはならない。君は立派な王になる。私が断言する」
しかし、それでもセレーネは断った。彼女の意思は固い。どんなに説得しても、きっと彼女は首を縦には振らない。
ニルヴァルドはそのまま席を立つと、扉の方に歩いていく。
「もしその気になったら、いつでも話に来てほしい」
そう言って、彼はソルネチア家を出た。
セレーネはふっと息をこぼすが、隣にいたリュシュリシュはご乱心で、使用人に塩を撒くように指示をしていた。
その様子に、セレーネはクスリと笑った。ただ、ニルヴァルドに対して申し訳ない気持ちもあった。
それだけの価値を感じてくれていたのに、いい返事を返せなかったこと。
もし自分が、他の令嬢たちのように王妃の座に執着していれば受け入れていたが、セレーネは玉座よりも魔法とユリウスが優先だった。
「レーネ」
「ユリ様」
「なんだか父上がご乱心だが、何かあったのか?」
「いえ、気にしないでください。それよりも、お時間があれば別邸の庭までお散歩しませんか?」
「あぁ。レーネと一緒なら、僕はどこでも構わないよ」
【第I章完結】




