70話
薄暗い地下室。明かりは壁際に設置された数個のランプ型の魔道具のみ。
この魔道具が開発されてからは、ランプが割れたことによる火災が減ったとされるほど、革命的な魔道具と当時は言われていた。
そんな魔道具の灯りを頼りに、ユリウスは足音を響かせながら目的の牢の前で足を止めた。
「体調はどうだ。メルフィー・エトワール」
「……私はもう、エトワールじゃないです……私はメルフィー……ただの、メルフィーです」
牢屋の中。膝を抱えて弱々しく口にするメルフィー。目の前にいる彼女は、以前のような妖精な可愛らしさはなく、まるでゴミの中にいるネズミのような風貌だった。
「ふふっ。まさか、ユリウス様との初めましてが、こんな状況だなんて……はは」
「そうだな。まさか三大公爵家の一つである、エトワール家の末娘とこんな形で会うとはな。君にとっては良かったんじゃないか。蛇の姿の僕と会わなくて」
皮肉で言われたのがすぐにわかったのか、メルフィーは再び膝を抱えた。
ユリウスは護衛をつけていなかった。一人でメルフィーに会いに来た。
セレーネはいまだ目を覚ましてない。ここよりも整備されてない汚い廃教会の地下室に何日も監禁され疲労も溜まり、食事もまともにとっていなかったせいか栄養失調になりかけていた。それから、魔法を封じる首輪で、一時的に魔力を抑え込まれていたせいか、魔力が彼女の中に溜まりすぎていた。
医師は命に別状はないとのことで、とにかく今は、目を覚ますのを待つだけだった。
「何が違うんだろう」
「ん?」
目覚めないセレーネのことを感げていると、ぽつりとメルフィーはつぶやいた。
男女とは言え、お互いに家柄も容姿もいい。違うのは、ユリウスが呪いで一時期醜い姿をしていたこと。
「なのにどうして……貴方はセレーネに……家族に愛してもらえたの?」
自分は愛されて当然。特別なのだと。なのに、家族は自分を見なかった。
他の人は、メルフィーが笑うだけで愛した。悲しそうにすれば庇ってくれた。不機嫌そうにすれば怒ってくれた。みんなメルフィーを守っていた。それは、愛していたから。
だから、見た目が化け物になったユリウスが愛されるわけがない。なのに彼は、メルフィーが愛されたいと思っていた人たちに愛されていた。
何が違うのか。自分と、ユリウスにいったいどんな差があるのか。
「………どんなに周りを言葉巧みに誘導しても、君の価値が変わることはない。君が愛されなかったのは、君の価値を増やしたり、磨かなかったのが原因だろう。」
「……じゃあ、もし……それができてれば、私は今よりももっと愛されて、幸せだっただのかな……?」
「……わからない。が、少なくともこういう結末にはならなかっただろう」
ユリウスがそう答えれば、メルフィーは「そっか……」とつぶやいた後、大笑いしながらベッドに倒れ込む。
「そっか……そっか……」




