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7話

「参加する必要はない」


婚約が大々的に発表されたことで、公爵家にはセレーネ宛の招待状が多く送られてきた。お茶会やパーティーなどの社交の場は、政治が大きく絡んでくる。騙し騙され、落とし落とされて。貴族通しの心理戦が当たり前のように飛び交う環境。

セレーネ自身、ユリウスの呪いを解くための研究だったり、公爵家の人間としての教養を身につけるための授業などで忙しい時間を過ごしているため、お茶会やパーティーに参加するつもりはなかった。

ただ一通、予告通りと言うべきだろうか。さも当然のように公爵家に送られてきたパーティーの招待状。セドリックとメルフィーの婚約パーティーの招待状だ。


「そもそもこの2人は何を考えているんだ?片方は元婚約者。もう片方は婚約者を奪った令嬢。そんな2人の婚約パーティーにセレーネを呼ぶなど、あからさまな悪意ではないか」

「ご迷惑をおかけしてすみません。ソルネチア家に嫁ぐことになったので流石にとは思ったのですが……」


だが、長い間セドリックの婚約者として彼のそばにいたセレーネは、だからこそこの招待状を送ったのだと理解した。

セドリックが誰よりも、セレーネが自分よりも上に立つことに嫌悪することをだれよりもセレーネ自身が理解しているのだから。

彼らがセレーネを呼び出す目的は、もちろん大勢の前で彼女を下げるためということもあるが、おそらく本命は婚約破棄を言われたその日のメルフィーの言葉。


――― お詫びと言ってはなんだけど、私が代わりに新しい婚約者を紹介させて。


ユリウスじゃない相手を婚約者として紹介し、その場で成立させることだろうと予想した。

相手はソルネチア家と同じ三大公爵家の一つ、エトワール家。不可能なことではないはずだ。

そのことをセレーネが話せば、リュシュリシュは頭を抱え、尚更活かせるわけにはいかないと拒否をする。

予想通り招待状は処分する形となると思われたが、このパーティーには代わりにソルネチア公爵夫妻。つまり、リュシュリシュとアニエスが参加することになった。


「たとえ侯爵家に嫁ぐとはいえ、相手は公爵家の令嬢だ。参加しないわけにはいくまい。セレーネはまだ婚約という立場。公爵家の人間の催しものには、公爵家の人間が」


リュシュリシュはすぐに、使用人にパーティー参加のことをアニエスに伝えるように指示をし、そのままセレーネ宛の招待状をすべて、暖炉に放り投げた。


「結婚まで、私はお前もユリウスも公の場に出すつもりはない。数年、十数年、数十年経とうと……お前たちのお披露目は、ユリウスの呪いが解けたその時だ」


振り返ったリュシュリシュは優しい笑みを浮かべた。

それは、誰よりもセレーネを、実子であるユリウスの幸せを願っているようだった。

自分よりも他人を思いやる優しい息子に、再び剣を握る喜びを与えてくれた恩人であるセレーネ。リュシュリシュは多くの人間の悪意を浴びながらではなく、多くの人間の祝福を浴びながら2人にはその日を迎えてほしいと思っている。


「お前も、ユリウスも、幸せになるべき人間だ」

「……ありがとうございます、公爵様」


再び挨拶をして、セレーネはそのまま部屋を出ていく。

1人その場に残ったリュシュリシュは椅子に腰掛け、テーブルに置かれた書きかけの手紙に目を向ける。







【ニルヴァルド・エトワールへ】


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