69話
焦りの表情を浮かべるメルフィーに対して、セレーネは変わらぬ表情だった。
感情のわからない無表情。そんな彼女の顔を見て、メルフィーはスッと、妖精姫の顔に戻る。
「どうして出てきているの?ほら、すぐに戻って」
「断る」
「どうして?もしかしてソルネチア家に戻るっていうの?でも何日経っても貴女を助けに来ないじゃない。所詮貴女は、公爵家にとって、息子の呪いを解く道具でしかないの」
いつものような、相手を思うような言葉。だけど、その言葉を分解してみればわかるような相手を陥れるような言葉。
セレーネは動揺なんてしない。ただじっとメルフィーを見つめるばかり。むしろメルフィーの方が少し動揺し始める。
「だからね、親友である私が貴女が幸せになれるように手伝ってあげる」
呆れるほどの言葉に、セレーネはため息をこぼした。
その瞬間、セレーネの視線がメルフィーから外れる。その隙をついて、メイドがセレーネに襲いかかった。
だけど、魔法が使えるようになった彼女に勝てるはずもなく、そのままあっけなく地面に叩きつけられた。
「なんで……なんで……」
そのままその場に座り込んだメルフィーは、まるで壊れた人形のようだった。
セレーネはゆっくりとメルフィーの近づき、彼女の前まで来た。
すると、まるで縋るようにメルフィーがボロボロのセレーネのドレスにしがみついた。
「どうして……欠陥品で、みんなから疎まれて………そんな貴女のそばにいたのはいつだって私なのに!!みんなに愛される私のそばにいれば、セレーネはきっと幸せに!」
「遠慮しておきます」
セレーネはゆっくりとスカートからメルフィーの手を引き剥がした。
涙で顔を濡らしたメルフィーはセレーネを見上げる。そして思い出した。
「遠慮しておきます」
あの時、学院にいた時。セレーネに声をかけて、友達になろうと行った時。
今と同じ表情で、同じ言葉で断られたことを。
メルフィーはゆっくりと後退りをする。そして、そのままその場から逃げようと走り出したけど、まるでそこに壁があるかのように、特定の場所から外に出ることができなかった。
「結界を張ってるから出られない。貴女はどこにも逃げられない」
「いやだ!出して!出して!!」
メルフィーは涙を流し、喉をつぶす勢いで叫び、何度も何度も見えない壁を叩き続ける。その姿がひどく痛々しくて、セレーネはまた別の魔法を使う。
アンジュに使ったのと同じ、眠らせる魔法。
メルフィーはその場に倒れ込む。どんどん視界が白んで、ぼやけていく中、まるで呪いの言葉のように……
「貴女が……貴女として……生活できるようにして、あ、げる……」
力なく、小さな寝息を漏らしながら、メルフィーは眠りについた。
セレーネはふぅと一息をつくと、その場に座り込む。
俯き、体から力がゆっくりと抜けていく。溜まりに溜まった疲労感。今すぐにも眠ってしまいたいと思うほどに、瞼がどんどん重くなっていく。
「レーネ!!」
不意に聞こえた声に顔を上げた。
結界の向こう側、大勢の騎士がいる中、セレーネに向かって声をかけるユリウスの姿があった。
「ユリウス様は………っ!」
結界を解き、セレーネは走り出した。
ユリウスも、結界が解けるとそのまま走り出した!
フラフラするセレーネは、必死に必死に走り続けるが、途中でそのまま倒れそうになった。魔法を使おうとするが、疲労のせいでうまく発動しない。このまま地面に顔をぶつけると思い、そのまま目を閉じる。
が、強い衝撃はなく、代わりにふわりと柔らかいものが彼女を包み込んだ。
「レーネ……レーネ、レーネ!!」
「ユリウス……様……」
「すまない……すまない……」
セレーネを強く抱きしめて、ユリウスは何度も彼女に謝った。謝らないで欲しくて、セレーネはそう口にしようとしたが、ユリウスが来て、彼ができしめてくれているせいか、気持ちがホッと落ち着き、そのまま眠りについた。




