68話
「うっ……ぐっ……」
「私が魔法しか使えないと誤解してくれたよかった」
立ち上がったセレーネは、拘束された縄を解き、首につけられた魔法封じの首輪を外した。
セレーネは幼い頃、兄二人に護身術を教わった。魔法だけでは、いざ魔法使えない状況になった時に、自分の身を守れないというものだった。
同時に、長男であるレオンが2年ほど東側にあるとある国に留学した際に、「気」というもの教わり、帰国後はセレーネとサイラスに教えた。
「ぅ……あ、あんた……」
「まぁもうほとんどないだろうけどね、念のために」
セレーネは、自分につけられていた首輪をアンジュに装着し、同時に自分を縛っていた縄で彼女の体を拘束した。
「なにすんのよ!!さっさとこれを解きなっ……」
「さよーなら、愛に飢え、愛されなかった魔女さん」
喚き避ける彼女を魔法で眠らせたセレーネは、彼女にお別れの言葉を口にする。
一度大きく背伸びをした後、さっきまでの自分と同じ状況になっているアンジュをその場に残し、セレーネはその場を後にする。
「廃教会……ユリウス様のことだから探してくれてるだろうな……なら」
セレーネは星空が輝く空に向かって、赤い、まるで真っ赤なルビーが砕け散るような光を空に弾けさせた。
それは、この夜空にはひどく目立つ。誰もが思わず見上げてしまうようなものだった。
きっとこれでユリウスもセレーネを探しにここに来る。しかしあの目印は誰の目にも入るものだから当然……。
「セレーネ!!」
聞き覚えのある愛らしい声。
目印を飛ばしてすぐにその場を後にすればいいものの、セレーネが逃げずにその場にいた理由。それは、無自覚に、自分を狂おしいほどに愛してしまった可哀想な妖精を待っていたからだった。
「こんばんはメルフィー。いい月ね」




