67話
怒りに顔を歪ませたアンジュは、そのままセレーネを地面に転がすと、彼女の方に肩に勢いよくヒールの踵を突き刺した。
「っ!………はは……その顔、図星だった?」
セレーネを見下ろす彼女の顔は酷いものだった。起こした行動は、まるで子供のような八つ当たり。目の前にいるのは恐ろしい魔女なんかではなく、溢れた感情を人に叩きつける赤子だった。
「そうよ!!私の魔法の源は愛!!たくさんの男愛した!私の愛を受け入れた男もたくさんいただけど、本当に好きになる男は、みんな別に女がいた……私に劣るブスばっかり!!なんで……なんで……こんなに……こんなに」
アンジュの突き刺すヒールがゆっくりと、ぐぐっと押し込まれる。
靭帯を貫いてはいないが、骨が悲鳴をあげているのがわかる。セレーネは奥歯を噛み締めながら必死に痛みに耐え続けた。
「だから呪ったのよ……」
両手で自身の顔を覆っていた彼女の手がゆっくりと顔から離れていく。
だけどその顔にゾッとした。
もう魔力は空っぽかそれに近い状態だというのに、彼女から感じるものに、セレーネは冷や汗を流す。
「呪って、私だけを愛させようとしたのに……なのになんで……」
ある男は自ら死を選んだ。
ある男はその醜い見た目でも愛してくれる人がいた。
ある男は呪いを解いてハッピーエンド……
もう彼女の中に愛なんてものは残っていなかった。
ただただ彼女が抱くのは愛した男に対する、そんな彼らを奪った女たちにたいする「怒り」だけだった。
セレーネの移動魔法を妨害した魔法。アンジュがここにきた移動魔法は、彼女の中に残っていた魔力でなんとかできたことだった。
「でも、もういいわ……だって、私は最高に満足だもの」
表情は笑みに変わり、さっきよりも強く、そして確実にセレーネの体を貫こうと、ヒールに体重を乗せていく。
「一番忌々しいと思えるあんたの苦しいところが見れてるんだから!!」
高揚したアンジュは大笑いをする。
そんな様子を見て、セレーネは深いため息をこぼす。
長い、長いため息。まるで、体の中の空気を全て吐き出すような、そんなものだった。
「それは無理な願いね」
「は?何を言って……」
気がつけば、アンジュの目の前にセレーネの手のひらがあった。
それはそのままアンジュの顔を鷲掴みにし、背後の鉄格子に体を叩きつけた。




