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宝石令嬢と白蛇公爵  作者: 暁紅桜
第I章《白蛇公爵と宝石姫》
66/75

66話

メルフィーがメイドと共にその場を後にし、薄暗い地下には、ニタニタと笑うアンジュと。対して動揺などもせず、無表情のアンジュが見つめ合う。


「何も思わないの?」

「何が?」

「彼女が、貴女を好き……狂気的な愛情を向けていることに」


アンジュの言葉に、セレーネの表情は変わらなかった。

何も思わないのか。その問いに対してセレーネが答えるとしたら。何も思わない。

メルフィーが自分に好意を持っている。それが、男女のような美しいものではないことは、セレーネ自身もわかっていた。

だから、メルフィーのように取り乱すことはない。

だって、セレーネが注ぐ愛情も、受け入れる愛情もたった一人だけ。彼以外の人間に愛情を注ぐつもりも、受け取るつもりもない。

だから彼女の感情は動くことない。彼女の感情が激しく揺れ動くのは、愛しい人間にだけ。


「ねぇ、魔女アンジュ」

「何かしら」

「貴女はどうしてこんなことをしているの?」


アンジュはメルフィーを気に入っていた。それは、自分と同じ狂愛を持っていたから。だから彼女は、メルフィーの行動に協力した。手を貸した。だけど、セレーネはアンジュには別の理由があると思った。メルフィーに協力することで得られるメリットのようなもの。


「どうして……どうして………そうね……単純なことよ」


彼女の履いているヒールの踵が空間に響く。

牢屋の扉が開き、地面に座るセレーネよりも少しだけ視線の高い位置から彼女を見下ろす。そして、そのまま勢いよく彼女の顎を掴んだ。


「幸せそうなあんたがムカつくのよ!!」


アンジュもまた、セレーネに執着していた。

彼女の魔法は、今までここまで完璧に解かれたことはなかった。

よくて一時的。悪くて、自我もなくなり、完全な獣と化してしまい、愛するものを殺すという結果になった。

なのに、見た目も心も白蛇になったユリウスを、セレーネは心から愛した。


アンジュは信じられなかった。

アンジュは許せなかった。

アンジュは妬ましかった。


アンジュは、純粋に人を愛するセレーネが憎たらしくて仕方なかった。

だからメルフィーに協力した。

メルフィーは自分と同じ愛情を持っていた。

彼女は自分の幸せのためなら、愛する人間の幸せなんてどうでもいい。

平気でセレーネの四肢をバラバラにし、平気で醜い男を連れてきてセレーネを犯させる。

アンジュはそれがみたかった。

幸せそうな、純粋な愛を持つ彼女が、穢され、壊され、絶望していく姿を。


「貴女が……」


彼女から伝わる感情は、あの時と同じ。

ユリウスの中にある魔女の魔力を体内に入れた時に感じた、愛とは言えない悍ましい感情。

だけど、セレーネは動じなかった。変わらずただ、アンジュを見つめるだけだった。


「貴女がどんな魔女かは知らない。でも、同じ魔法を使うものとしてわかる。貴女はもうそう長く生きれない」

「っ!!」

「貴女、もうほとんど魔法も使えないでしょ。だって貴女の魔法の源は、もうどうやっても得られないのだから」


魔女の力の源は感情。そして、魔女によって、その感情の種類は違う。


ある魔女の力の源は笑顔。

ある魔女の力の源は悲しみ。

ある魔女の力の源は承認欲求。


そうやって、多くの感情の中のたった一つが、魔法を使うための源となっている。

その感情を得られ続ければ、魔法は無人道に扱うことができる。

逆に、得ることができなくなれば、魔法を使うこともできなくなる。

しかし、セレーネは感じ取っていた。今の彼女と初めて出会った時の彼女では、まとっている雰囲気も魔力も全く違う。明らかに弱っている。

原因はおそらく、源である感情が衰えているか、またはないからではないか。

セレーネはそう考えながら、顔を怒りで歪ませるアンジュを見つめた。


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