65話
「な、なんですかいきなり!」
月光が差し込む時間、ハーストン侯爵邸に多くの騎士を引き連れてユリウスが尋ねてきた。
屋敷の主人であるハーストン侯爵はもちろん、後継者であるセドリック、使用人たちも何事かと次々に目を覚ます。
「ハーストン侯爵。やぶ遅くに突然の訪問失礼する。ことは一刻を争う自体のため」
「な、何事ですか……こんな夜遅く……」
「単刀直入に申し上げます。メルフィー・エトワールはどこですか」
ユリウスの鋭い目に侯爵は後ずさる。しかし彼の表情を見るに何もしないようだった。むしろ、なぜユリウスがメルフィーを?と不思議に思っているようだった。
理由を聞こうと侯爵が口を開こうとしたが、多くの使用人たちが集まって好都合だというように、ユリウスは声をあげてメルフィーの居場所を聞き出そうとした。
「あ、あの……」
多くのものが小さな声でどういう状況か隣の使用人たちと会話をする。だけど、誰1人としてユリウスの問いに答えるものはいなかった。
そんな中、1人の使用人が手を挙げた。小柄の、見るからに幼い少女が、少し怯えながら手を上げて前に出てきた。
「メルフィー様でしたら、朝早くから専属メイドと一緒にお屋敷を出られました」
「……行き先は聞いているか?」
「いえ。私は新人なので、尋ねたところで」
「そうか……助かった。感謝する。怖い思いをさせたな。勇気を出して答えてくれてありがとう」
ユリウスは幼いメイドと視線を合わせるように膝をつき、優しい言葉を投げかける。
至近距離で美しい容姿の男性にそんなことを言われ、幼いながらも女性である彼女は顔を赤く染めてうつむき、なんとか「い、いえ……」という言葉を絞り出して口にした。
「すぐに捜索しろ。見つけ次第、信号弾を打ち上げろ」
「ユリウス様!」
ユリウスはすぐに騎士たちに指示を出してメルフィーを探すように指示を出す。
何が何だかわからず目を白黒させる父親に変わり、玄関ホールの様子を見ていたセドリックが声をあげて彼のそばにやってくる。
「なぜメルフィーを探しているのですか!」
「………彼女には今、誘拐容疑がかかっている」
「なっ!メルフィーがそんなことをするはずがない!」
「事実だ。彼女はアンジュ・ルージュ・アムネシアと手を組み、ルーア・クラッセンを使ってどこかに彼女を幽閉している」
「可憐な彼女がそんな悍ましいことをするはずがない。きっと誰かが彼女を」
「君は……」
「うぐっ」
それ以上の言葉は聞きたくないというように、ユリウスはセドリックの首を掴む。
ハーストン侯爵が息子を助けようと走り出すが、それをユリウスの騎士たちに止められた。
「女性の外見しか見ていないのだな」
「な、なにを……」
「メルフィー・エトワールがどうしてそんなことをしないと言い切れる。いくら可憐な見た目でも、中身も可憐とは限らない。セレーネも同様だ。お前は本当に彼女を見ていたのか」
「うぐっ!ゲホッ!ゲホッ」
ユリウスは強くセドリックの首を掴むと、そのまま勢いよく床に転がし、冷たい目を彼に向ける。
「彼女たちがかわいそうだ。まぁメルフィー=エトワールにとっては都合のいい男だったのだろうな」
ユリウスは彼に背を向け、数名の騎士を屋敷に残して彼自身も捜索を開始した。




