59話
「あはっ!無様ね、セレーネ=ルーンナイト」
セレーネの姿を目にして、アンジュはたからかに笑った。
どうしてこの2人が一緒にいるのかはわからないが、セレーネは納得する。
学院にいたころ、メルフィーの成績はあまり良くなかった。それは魔法も同じ。
だから、セレーネの転移魔法を妨害してここに連れてくることは不可能。だけど、魔女であるアンジュならそれも可能だろう。
2人が手を取り合った理由がセレーネであることは明白だった。
「魔法の才能に長けたセレーネが魔法を使えないじゃ、ただの令嬢だよね。ふふ、何もできない可哀想なセレーネ」
「その首輪は特別性よ。どんな優秀な魔法使いでも、それをつけられたんじゃ魔法は使えない。そう……今の貴女は私より劣る哀れな女」
愉悦に満ちた目をするアンジュ。
セレーネが閉じ込められている部屋に入ったアンジュは、そのまま彼女の顎を強く掴む。
手足は拘束され、抵抗しようにも何もできない。
ただ睨むことしかできないが、そんな表情をしても、ただアンジュの心を満たすだけだった。
「魔女さん。セレーネにあんまりひどいことしないで。傷がついたらどうするの」
「……そうね、ごめんなさい」
ゆっくりとセレーネから手を離し、優しい笑みを浮かべながら振り向くアンジュ。
彼女と同じように部屋に入ったメルフィーは、床に横たわるセレーネに駆け寄り、彼女の頬に触れ、目の下を親指で優しく撫でた。
「綺麗な目……ねぇセレーネ。宝石眼って、どのぐらいの価値があるのかな?しかもそれがアレキサンドライトになると、どれぐらい跳ね上がるのかな」
メルフィーが何を考えるのか察して、セレーネは彼女を見上げる。
愛おしげに自分を見る彼女は、妖精姫と言われる表情や、本来の彼女の表情とは違う……セレーネが今まで見たことがない表情を浮かべていた。
「あぁでも、目だけじゃなくて体もあった状態だと値段は上がるのかな?下がるのかな?んー……高く売れる方がいいけど……目だけよりも体もあった方がきっと楽しいわ。だって、昼と夜で髪色も変わるのでしょう?」
地面に流れる赤い髪をメルフィーはそっと持ち上げる。
ずっと青緑色の髪しか見たことがない彼女にとっては、ひどく新鮮な姿だろう。
新鮮な姿ではあるが、宝石眼も合間ってか、セレーネの容姿は一段と美しかった。
彼女の姿を瞳に映すたびに、メルフィーの中にあるものがぐつぐつと煮えたぎる。
「でも、もし目だけの方が価値があったら、両目をくり抜いて、目元を布で覆えば宝石眼のお金と、髪色が変わる愛玩人形で高音がつくかもなぁ……」
彼女が浮かべる表情。彼女が紡ぐ言葉には既視感があった。
セレーネも一度感じたことがあるもの。
「ねぇセレーネ……貴女はどれがいい?」
それは、愛と呼ぶには悍ましすぎる、名もない感情だった。




