58話
「改めて、本日はお誘いいただき、ありがとうございます」
それからしばらくしてお茶会はお開きとなった。
他の令嬢たちを見送り、残りはセレーネだけ。彼女は元々帰りは魔法を使って帰るつもりだったため、迎えの馬車はない。
なので、クローディアと共に令嬢たちを見送った。
「私の方こそ来てくれて嬉しいわ。それと、弟たちがごめんなさい」
「気にしないでください」
「いつもはもっとしっかりしているのだけれど、令嬢を前にするといつもあんな軽口を叩くのよ。はぁ……どうしてあぁなったのかしら」
「ふふっ」
「ん?何か楽しいことでも?」
「あ、いえ。弟君たちは公爵様に似ていて、クローディア様は夫人に似ているなって」
「そうかしら?」
「はい。とても素敵な家族だと思います」
セレーネにそう言われて、クローディアは少しだけ顔を赤くした。
彼女がそんなふうに誰かに家族のことで褒めてm、おらったのは初めてだった。
立派な令嬢になるため、立派な王妃になるために日々厳しい教育を受け、甘えないように自分にも厳しくしてきた。
家族の優しさや思いやりについては、周りはもちろんだが、家族にも口にしたこともされたこともなかった。
「また、お誘いしてもいいかしら」
「光栄です。では、私はそろそろ」
「えぇ。また招待状を送るわね。………セレーネ」
「っ………はい、クローディア様」
セレーネはクローディアと距離を空けて魔法を発動させた。
不意に、クローディアから少し離れた茂みにメイドがいることに気づいた。
そのメイドは手に何かを持っており、セレーネはそれを確認するために目を細めた。
「っ!」
セレーネが、そのメイドがニヤリと笑みを浮かべたのを目にした瞬間、魔法にノイズが走る。
「セレーネ?」
クローディも異変に気付き、発動された魔法に戸惑った。
しかし次の瞬間、眩い光が放たれて、咄嗟にクローディアは目を閉じた。
しばらくすれば光も消え、クローディアはゆっくりと目を開ける。
そこには、さきほどまでいたセレーネの姿はなかった。
「無事に……帰れたってことかしら」
不安を抱きながら、さきほどまでセレーネがいた場所を見つめるクローディア。
そして、彼女の後ろにいたメイドは、すでにそこにはいなかった………
◇◇ ◇
魔法を発動し、目を覚ましたセレーネがいた場所は、目的のソルネチア家ではなく、薄暗い場所だった。
薄汚れた硬い床。鼻をつくカビの匂い。反響する音。
そして、目の前には閉ざされた鉄格子。
当然そこは見知らぬ場所だったあたりをキョロキョロと見渡してると、その空間にセレーネのではない足音が響いた。
「あ、目が覚めたみたいね」
鉄格子の向こう。ひょっこり顔を覗かせたのは、いつもの天真爛漫な笑みを浮かべるメルフィーだった。側には、よく彼女のそばにいる専属メイド。
この状況で言うまでもないが、セレーネをここに連れてきたのは目の前にいるメルフィーだろう。
何が目的かわからないが、こんな場所にずっといるわけにはいかない。
すぐにここから脱出してユリウスの元に帰らなければ。
セレーネは魔法を発動させようとしたが、なにも起きなかった。
そのときやっと、自分の首に見覚えないないものがつけられていることに気づいた。
「もしかして今。魔法を使おうとした?ふふっ、無駄よ。今のセレーネに魔法は使えない。だから……自分の姿を偽ることもできない」
「え……」
鏡がない現状自分が今どんな姿をしてるのかわからない。
だけど、セレーネがいる場所の高い位置には小さな窓。そこからは月光が差し込み、今の時間帯が夜だと表している。
そして魔法が使えない。メルフィーのいう自分の姿を偽ること。
「まさか、セレーネが宝石眼を持ってるなんてね。しかも、とっても貴重なアレクサンドライトの瞳」
そう。魔法が使えないと言うことは、魔法で隠していた宝石眼隠せていない。そして夜になったことで髪色も変わっている。
セレーネは今、ありのままの自分の姿をメルフィーに曝け出してることになる。
「話を聞いた時は、セレーネがそんなはずないって思ったけど、本当に宝石眼を持ってるなんてね。しかも、宝石眼ってだけで特別なのに、さらに希少なアレキサンドライトだなんて」
まるでお気に入りの人形を見つめるような表情をするメルフィーに、セレーネも流石に冷や汗を流す。
彼女は話を聞いたと言った。つまり、誰かがメルフィーにセレーネが宝石眼を持っていることを話したのだろう。
そのことを知ってるのは一部の者。その誰かが口外したのだろうかと。
そのとき、また足音が響いた。コツコツと響くヒールの音。メルフィーがそちらに視線を向けて、その人物に彼女が目を覚ましたことを伝える。
そして、その人物を目にして納得した。
宝石眼のことを知っている数少ない人物の中に、「彼女」もいると。
「ごきげんよう。会うのは随分と久しぶりね………魔女、アンジュ=ルージュ=アムネシア」




