56話
「招待状?」
「はい。セレーネ様宛に、ロサ家より届いております」
クラッセン家の一件からしばらく、セレーネ宛にロサ家よりお茶会の招待状が送られた。
送り主はロサ家令嬢。クローディア=ロサからだった。
招待状には、彼女の友人数名を誘って定期的に行われているお茶会に、セレーネにも是非来て欲しいとのことだった。
参加する令嬢は、クローディアの学生時代からの友人たち。
彼女たちは、学生時代にアルヴィスの婚約候補である彼女に流れる悪い噂など信用せず、彼女と親しくしていた者たちだった。
おそらく、彼女たちのいるお茶会に呼んだのは、セレーネの噂のことを気遣ってのことだろう。
せっかくのお誘いを無碍にすることはできず、セレーネはすぐに返事をした。
令嬢だけのお茶会ということで、当然セレーネのみの参加。使用人を数名つけるように言われたが、帰りは転移魔法で戻ってくるから1人の方がいいと断ったが、せめて行きの馬車移動だけは護衛をつけて欲しいと頼まれてそうした。
「楽しんでおいで」
「はい。いってきます、ユリウス様」
ユリウスたちに見送られ、セレーネはロサ家へと向かう。
三大公爵家の一つであるロサ家。魔導士の家系として有名な家系で、特に女系は飛び抜けて魔法の才能に優れている。
魔法学会に席を置く、ケイシー=ロサはもちろん、その娘であり次期王妃となるクローディアも魔法の才能に恵まれていた。
魔法の研究をするセレーネにとっては、とても有名な家系。そんなロサ家に足を運ぶことができて、少しだけ胸が高鳴っていた。
「クローディア様。セレーネ==ルーンナイト様をお連れいたしました」
ロサ家に到着し、乗ってきた馬車を見送って、使用人に案内でお茶会の会場へとやってきた。
色鮮やかなガーデンテラス。そこに準備された席に座る、美しい令嬢たち。
「いらっしゃい、ルーンナイト嬢」
「クローディア様。この度は、お茶会に招待してくださり、ありがとうございます」
「気にしないでちょうだい。みなさん、ご紹介します。ご存知の方がほとんどかと思うけど、彼女はセレーネ=ルーンナイト嬢です」
「初めましてみなさま。ルーンナイト伯爵家のセレーネ=ルーンナイトと申します」
セレーネが挨拶をすれば、他の令嬢たちはにっこりと優しい笑みを浮かべて挨拶をしてくださった。
丁寧に一人一人、自己紹介をしてくださり、クローディアの学生時代の友人ということもあり、当然セレーネよりも年上。爵位も、侯爵令嬢もいれば、セレーネと同じ伯爵家。そして、男爵家の令嬢もいた。
爵位もバラバラの令嬢たち。しかし全員共通してクローディアの人間性に惹かれ、噂など耳に入れずに彼女と親しくしていた方々。
セレーネにはそれがひどく羨ましかった。
彼女は結局、卒業まで心から友人と思える相手とは巡り会えなかったからだ。
「それにしても、本当にセレーネ様の瞳はオッドアイなんですね」
「え?」
「ちょっと」
ぼんやりと学生時代のことを思い出している時、1人の令嬢の言葉に思わず声を漏らしてしまった。
周りの令嬢が諌め、口にした令嬢が謝罪をしたが、セレーネは慌てて大丈夫だと口にする。
クローディアの友人。悪い意味で口にしたのではないというのはなんとなくセレーネにもわかった。
やっぱり、目のことを心から好意的に言われるのは慣れなかった。
学生時代は、目が合うたびにセレーネは罵られてばかりだった。
「やはり、差別はどうしても消えませんね」
「そうですわね。確かにオッドアイは珍しいですが、ただ色が違うだけで忌み嫌うようなものではないというのに」
「こんなにもオッドアイや双子に対して差別が酷いのは我が国だけみたいですよ。国によっては、神聖視されたりしていますし」
この国に未だ根付いているものに、令嬢たちは深々とため息をこぼす。
その話を優雅に紅茶を飲みながら聴いていたクローディアは、カップから口を離し、音を立てずにソーサラーに置くと、スッと背筋を正した。
「皆さんのいうとおり、差別の問題は大きい。どんなに法律でそれを罪としても、すぐになくなるわけではありません。今すぐにじゃなくてもいい。少しずつ、1人が差別をなくし、次に2人が差別をなくす。そうすることで、将来的に差別がなくなるようにしていけばいいのです」
「さすがクローディア様です」
「そうですね。小さなことでも、積み立てていけば大きな結果になります」
「まずは、私たちが見本とならなくては」
クローディアの言葉に感銘を受けた令嬢たちは、各々の考えや思いを口にする。
その差別の対象であるセレーネは、彼女たちの言葉や考えを聞き、とても心が温かい気持ちになった。
「ルーンナイト嬢。学院でのこと、実は従妹が貴女の一つ下の学年なのですが、耳にいたしましたの」
「そう……なんですか」
「えぇ。従妹の学年は、そこまでとは聴いていましたが、セレーネ様と同学年だった方々は酷いものだっと……」
「もう昔のことです。友人はできませんでしたが、1人だからこそ動きやすく、好きな魔法の勉強もできましたから」
「そうですわ。ルーンナイト嬢も魔法の才能がおありだとか!」
「才能のあるなしはわかりませんが、好きですし得意なことと胸を張って言えます」
「確かにルーンナイト嬢は魔法の才能に恵まれているわ。だって、あのお母様が彼女を高く評価しているのだから」
「まぁ!あのケイシー様が!」
「それは本当に、胸を張っていいことですわ、ルーンナイト嬢」
やはり、ケイシーに高く評価されることは誉なのだとセレーネは思った。
魔法学会には、他にも多くの魔法の才能と持つものが在籍しているが、中でもずば抜けているのが魔導士の家系である、ロサ家の血を注ぐケイシーだった。そんな彼女に評価されることは、魔法を愛するものからすれば、とても誉高いことだった。
「これはこれは、ふらりと足を運んだら美しい花がこんなにも」
「そうだね兄さん。庭がより一層華やかに見えるよ」
その後は、魔法の話はもちろん、趣味の話だったり、婚約者がいる令嬢たちはその恋愛話をお互いに話したりと、女性特有の楽しい会話で盛り上がっていた。
だけど、そんな女性の花園に迷い込んだ者たちがいた。
「ごきげんようお姉様方」
「よければ僕らとも、少しお話ししませんか」




