53話
何が起きたかわからないルーアは、水浸しの自分の体と目の前のセレーネを何度も交互に見返した。
後ろにしがみついているフェネルも何が起きた変わらなくて、同じようにセレーネとルーアを交互にみつめた。
「随分興奮して頭がおかしくなっておられたので、水魔法で冷やして差し上げたのですが……冷えたでしょうか」
「……っ……セレーネぇえええええ!!」
「何事だ!!」
冷えたはずの頭は、怒りによって再び熱を持ち、ルーアはそのままセレーネにつかみ掛かろうと腕を伸ばした。
だけどその時、クラッセン夫妻とユリウス。数名の使用人たちが温室へとやってきた。
「これは……一体……」
目の前には、ずぶ濡れのルーア。セレーネの後ろでしがみつくフェネルの姿があった。
しかし、何よりもクラッセン夫妻が驚いたのは、部屋にいるはずのルーアがまた部屋を抜け出してこの場にいることだった。
セレーネは内心、警備をしていた使用人たちに同情した。
「ユ、ユリィ……」
さっきまでの怒りはどこへやら。一瞬にしてルーアはか弱い令嬢の演技をした。
涙を流し、ありもしないセレーネの行動を彼に伝え、そのまま縋ろうとした。
しかし、そんな彼女を無視して、ユリウスはすぐにセレーネとフェネルのもの駆け寄った。
「大丈夫かい、セレーネ」
「えぇ。特に問題ありません」
「フェネルも、大丈夫か?」
「あ、はい。僕は平気です」
「……どうして……ねぇどうしてなのユリ!!」
振り返ったルーアは、涙を流しながらユリウスに投げかける。
自分ではなく、どうしてセレーネを選んだのか。
ずっと仲良くしていた自分よりも、どうしていきなり婚約者になった彼女を気にかけるのかと。
「そんな欠陥令嬢よりも、私の方が公爵夫人として相応しいのに!!」
「ルーア!お前はまた!」
「……言うまでもないだろう。どうしてセレーネなのか?そんなもの、彼女が僕を愛してくれたからだ。君ならわかるだろう?散々僕の悪口を言ったのだから」
振り返り、ルーアのものに向かうユリウス。しかし、彼の魔塔気配はひどく殺気立っている。さすがのルーアもそれに後退りをするが、逃げるなというように、ユリウスは彼女の手首を掴んだ。
「白蛇の僕を見て君は化け物と言った。だけど、彼女は美しいといってくれた」
「そ……そんなもの……死にたくないから……嘘をついて……」
「君は随分僕をみくびっているみたいだね。本心かどうかがわからないと思ったか?たとえ嘘だったとしても、君みたいにはっきりと僕を拒絶する人間よりはマシだ」
「ち、違うのユリ……わ、私は」
「ルキに取り入ろうとして、人に戻ったら何事もなかったように僕に媚を売る。セレーネやフェネルなんかよりも……よっぽど君の方が化け物で、ひどく醜いよ」
「あ……」
ルーアはそのまま力無くその場に膝をつく。
手を離したユリウスは、そのままセレーネの元に足を進め、彼女を抱きしめた。
わずかに体が震えている。それに気づき、セレーネは優しく彼を抱きしめ返した。




