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50話

謹慎を受けて、部屋にいるはずのルーアが、今目の前にいた。

どういうことだとセレーネとユリウスは夫妻に視線を向けるが、夫妻もどうして彼女がここにいるのかわからなかった。

しかし、単純な答えを言えば、抜け出してきたのだろう。親の指示に従わず、自身の感情を優先して。


「お父様とお母様もひどいわ。ユリが来ているのに、私に何も言ってくださらないなんて。使用人たちの話を聞かなかったら、会えずにいたわ」


嬉しそうにユリウスに擦り寄るルーア。隣にいるセレーネは彼女にいないもののようにされ、擦り寄られているユリウスは眉間に皺を寄せている。


「ルーア!ユリウス様から離れなさい!失礼だぞ」

「どうしてですか?私とユリの仲だもの。これぐらい普通よ」

「いつまで子供気分でいるんだ。いいからお前は部屋に戻りなさい。お二人は私たちのお願いを聞きに、わざわざここまできてくださったのだ!」

「………あら、セレーネ様もいらしゃっていたのですね。気がつきませんでしたわ」


鼻で笑うように、ユリウスの腕をとったままセレーネに失礼な挨拶をするルーア。

それにたいしてセレーネは特に感情を見せず、いつも通りの無表情で彼女に挨拶をした。

その様子にルーアは嫌味が伝わってない。または気にも止められなかったことに、顔を歪ませて怒りを露わにしていた。


「いい加減にしろルーア!どうしてお二人を呼ぶことになったのか、お前はわかってるのか!」

「えぇもちろんです。やっとお父様が、私とユリを婚約させようとお考えになられたのでしょう」

「……ルーア、いい加減にしてちょうだい。貴女、自分がもういくつだと思ってるの」


クレッセン夫妻も、娘の言動にひどく頭を抱えている。

ユリウスは何も言わない。セレーネも特別何か行動を起こそうとはしてない。

ただ、親子のやり取りが終わるのを、黙って待っているようだった。


「はぁ……お前がもっと優秀であれば、戻ってきたばかりのフェネルに苦労をかけずに……」

「その名前を口にしないで!!」


先ほどとうって変わって、ルーアはひどく嫌悪の表情を両親に向けている。

流石のユリウスとセレーネも驚いていたが、この怒りは初めてではないようで、両親はただただ呆れたような表情を浮かべていた。


「どうしてあんなのの肩を持つの。ねぇ、早くあれを追い出してよ!私、あれと一緒に家にいるなんて耐えられない!」

「ルーア、いい加減にしなさい。フェネルは貴方の……」

「あんな気持ち悪いもの、みたくもないわ!」

「ルーア!!」


グッと奥歯を噛むような声を漏らすルーア。だけどすぐにハッと。それはまるでいいことを思いついたというような表情だった。


「お父様はあれを次期当主にしたいのでしょ?だったら、あれとセレーネ様を結婚させればいいんですよ」

「は?お前、何を言って……」

「そして、私がユリウスと結婚すれば問題ないでしょ。セレーネ様は優秀な方ですし。それにほら……ふふっ、あれにはお似合いだもの」


悪意のある言葉だということはセレーネにも理解できた。

クレッセン夫妻の顔は青白くなり、ユリウスもこれ以上は我慢できないというような殺気を放っている。しかし、最も近い位置にいながら、ルーアはそれを感じ取れなかった。


「そういうことだから、ユリは私とお茶にしましょう。あぁセレーネ様はあれとお会いするのでしょう。未来の婚約者同士、二人でゆっくりと」

《動くな》

「っ!」


セレーネが一言そう口にした瞬間、ぴたりとルーアの体が動かなくなった。

何が起きたのかわからないルーアは必死に体を動かそうとするが、全く動かない。

その隙にユリウスがルーアの手をほどき、そのままセレーネの腰を抱き寄せた。


「ユリ、どうして……ねぇ、たすけてユリ!その女が私にひどいことを!」

「侯爵、そろそろ用事を済ませましょう」

「……そう、ですね……お前たち、ルーアを部屋に。見張を怠るなよ」

「はっ!」

「待って!お父様!お母様!ユリ!」


使用人に連行されながら、ルーアは必死に両親とユリに助けを求める。

しかし誰も彼女をたすけてくれない。不意に、セレーネと目が合った。ルーアは激怒し、彼女に罵声を浴びせたが、特に気にした様子もなく、セレーネはユリウスと共に廊下を歩き始めた。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」

「いえ、お気になさらず」

「申し訳ありませんセレーネ様。娘がとんだご無礼を」

「気にしないでください。お二人が悪いわけではありません」

「私たちの教育が悪いばかりに……」


申し訳なさそうな表情をする両親に、セレーネは優しい言葉を投げかける。

実際、あぁなってしまった原因は、ルーアが部屋から抜け出したことにある。

確かに、警備がしっかりできてなかったことに対しては、謝罪が必要だが、それ以外に夫妻に非がないことはセレーネもわかっている。


「用が済んだらすぐに帰ろう。ルーアがいつ、また抜け出すかわからないからね」

「わかりました」

「お二人ともお待たせしました。こちらのお部屋になります。


そう言って、クレッセン侯爵が部屋の扉を開く。

開かれた扉の先、そこにいたのは幼い少年だった。


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