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5話

背後の窓から降り注ぐ光が、鱗の一つ一つに反射し、部屋がひどく明るく感じる。反射する鱗も光によって僅かに虹色に輝いており、目の前のそれは一切の恐怖を感じることはなく、むしろ神々しく、反射的に跪きたくなるほどのものだった。

じっと赤い瞳がセレーネを見つめ、セレーネもまたその赤い瞳をじっと見つめる。


「なんて……美しいの……」

「……君は、私が怖くないのか?」

「怖い?そんな!こんなにも美しいのに怖いだなんて」


先ほどまでの無表情な顔から一変、彼女は目を輝かせ、ひどく表情豊かになった。

側にいるルキウスも、当然目の前のユリウスも困惑をしていた。唯一妹の反応に驚かないサイラスは軽くため息を吐きながら、興奮する妹の両肩に手を置く。


「だから言っただろう。妹は絶対に怖がらないって。こいつは、魔法の実験で虫も爬虫類も平気で捕まえるようなやつだ。そんなやつが、お前の姿に怯えるわけないだろう」

「確かにそうだが……こんな反応をされるとも思っていなかった」


唖然とするユリウスに対し、兄に止められながらも目を爛々に輝かせるセレーネの図はどこか異様な光景にも見えていた。



◇ ◇ ◇



気持ちが少し落ち着いた頃、セレーネがゆっくりとユリウスの体に触れる。

ゆっくりと中を探るように自身の魔力を注ぎ込んだ瞬間、まるで何かが手を払いのけるように彼女の魔力を拒絶した。


「確かに、変な魔力がありますね。私の魔力が拒絶されました」

「探知魔法も使えるのか、すごいな」


驚くユリウスに、なぜか本人ではないサイラスが鼻高々と胸を張っていた。

そんな兄を横目に、セレーネは実験のために血液をとらせて欲しいとお願いした。

ユリウスに許可をもらうと、魔法を使って血液を取り出す。


「赤い血なんですね」

「蛇は違うのか?」

「確かに中には青とか緑の血を流す個体もいます。なので、ユリウス様もそうなのかと興味本位で」


取り出した血液の中からも、セレーネの魔力を拒絶した魔力は感じ取れた。

これをどうにか取り除くことができれば、もしかしたら呪いが解けるかもしれない。

自分の目の前に立ちはだかる未知に、セレーネは思わず口元を歪ませてしまう。そんな彼女の様子に、ユリウスはやはり不思議だと言わんばかりに彼女のことを見つめていた。


「その体で魔法を使用できますか?」

「いや、できない」

「動物的本能などは?」

「ない。食事も人と同じものだ」

「なら、やはり見た目が変わっただけ……魔法の使用ができないのは呪いの影響と仮に仮定して……」


ぶつぶつと考え出すセレーネを見て、サイラスはこのままだと長引くと思い、一つ大きく手を叩く。

その音に驚き、セレーネも、もちろんユリウスも大きく肩と体を上げた。


「とりあえず、婚約者同士の顔合わせは終わった。明日にでも、お前達の婚約が発表されるだろう」

「……セレーネ嬢。本当に僕と婚約していいのかい?君の評判が悪くなったり……」

「……ユリウス様は、私の噂をご存知ないのですか?」

「君の……噂?すまない、僕は世間のことには疎くてね」


この姿になってから、彼はこの部屋から出たことがない。

今部屋の外がどうなっているのか、誰がいるのか、国がどう変わっているのか、それを伝えてくれる人も当然いない。だから、セレーネの噂は彼の耳には入ってこなかった。


「欠陥令嬢。これが一番有名ですかね。この国でオッドアイは私だけなので。他にも色々ありますよ。マッドサイエンティスト、魔法狂、氷結令嬢、高飛車令嬢。あと」


あげればキリがないほどのあだ名の数々。そして、そこに含まれる意味まで言えば1日が潰れてしまうほどだった。要するに、セレーネは世間からは忌み嫌われる存在というわけだった。

そうなった1番の原因は、いうまでもなくメルフィー・エトワールだった。

彼女と関わってからは、欠陥令嬢と言われていたセレーネにたくさんのあだ名と噂が流れるようになっていった。もしかしたらそれも、彼女の企みの一つだったのかもしれないとセレーネは思っていた。


「なので、あなたと婚約。それこそ結婚して悪い噂が流れても問題ありません。すでにあるものに1つ増えるだけです。あぁでも、あなたと婚約、結婚してひどく言われるのは嫌だな」


セレーネはゆっくりと手を伸ばし、ユリウスの顔。人で言う頬の部分に触れる。

向ける眼差しはひどく愛おしそうに、撫でる手は壊れものを扱うように優しく温かいものだった。


「だって、私は心の底から貴方と婚約できて嬉しいもの」


お互いに何も知らない。今日会ったばかりだが、セレーネは前の婚約がどうでもよくなるほど。むしろあれは今この瞬間のためにあった舞台装置の一つと思えるほどに幸福に満ちていた。


「あ、せっかくなのでお部屋は隣がいいです。本当は一緒の部屋がいいんですが、まだ結婚してないのでそこは我慢します。あ、食事は一緒に摂りましょう。ユリウス様は何がお好きですか?」

「ぇ、あ……セレーネ嬢?」

「レーネ。レーネとお呼びください、ユリウス様」


浮かべるその顔に、ユリウスの胸が僅かに高鳴った。今まで抱いたことがないそれは、体が燃えるように熱くなり、これはなんだと頭の中で混乱する。そんな彼に対し、セレーネは不思議そうにユリウスの顔を覗き込んだ。


「ユリウス様?」

「……ユリ……」

「え?」

「僕のことも、その……ユリと、呼んでくれ……レーネ」

「……はい!」


満面の笑みを浮かべるセレーネと、そんな彼女をどこか愛おしそうに見つめるユリウス。

つい先ほど顔を合わせたばかりだと言うのに、思っていたよりもうまくやれそうで、サイラスもルキウスも胸を撫で下ろした。


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