46話
「お茶会、ですか?」
ある日、セレーネはアニエスにお茶会に誘われた。
大々的なものではなく、小規模なお茶会で、参加するのもアニエスを含めて3人。
それだけ少ないとなれば、友人同士の数少ない交友の場だというのに、そこに自分が参加していいのだろうかと思った。しかし、アニエスは気にしなくていいと口にする。むしろ、その参加する二人がセレーネを呼んで欲しいと彼女に頼んだそうだ。
「わかりました。お言葉に甘えて、参加させていただきます」
「ありがとう。ふふっ、最近はユリウスが貴女にべったりだから」
元の姿に戻り、無事に婚約の発表も済ませた二人。
国王からの爵位の話については、すでにユリウスがリュシュリシュに話をしており、「良いではないか」と言われている。
とはいえ、結婚もまだ少し先に考えている。セレーネの汚名返上だったり、ユリウスの貴族としてのリハビリのようなものがあり、それが終わり次第、式を上げる予定になっている。
ただ、人の姿に戻ったユリウスはセレーネにべったりで、暇さえあれば、彼女のそばを肩時も離れようとはしなかった。
そのため、こうやってアニエスと話すことさえ、セレーネにとっては久方ぶりの時間だった。
「15の鐘が鳴る前に迎えにくるから、それまでに準備をしておいてちょうだい」
「わかりました」
アニエスが部屋を出たあと、メイドたちに手伝ってもらって身支度をする。
ただ、セレーネは少し緊張していた。
メイドたちの話では、そのお茶会は定期的に行われている三大公爵家の夫人たちのお茶会だった。
当主たちは仕事のこともあり、交友する機会はほとんどないが、夫人たちの仲はよく、定期的に集まってお茶会を開いているそうだ。
そして今日が、そのお茶会の日だと。
支度を終え、アニエスが迎えにくるのを待つセレーネ。
15の鐘がなる前に扉がノックされ、アニエスが部屋に訪ねてきた。
道中でお茶会に参加するメンバーを紹介されたが、メイドたちが言ってた通り、参加しているのは【ロサ公爵夫人】と【エトワール公爵夫人】の二名だった。
クローディアの母であるロサ公爵夫人は、当主であるロサ公爵に比べて厳しい人で有名だった。クローディアの教育も、夫人自らが行なっていたと聞く。
そしてエトワール公爵夫人。メルフィーの母である彼女は、社交界でいまだに力を持ち、無邪気な笑顔とは裏腹にその洞察力と情報量で多くの貴族と手を結び、同時に没落させた。社交界では「彼女を絶対に怒らせてはいけない」と言われているほどだ。公爵に対しては先日の婚約パーティーで彼女とは違うということはわかったが、母親も同じとは限らない。もしかしたら会うなり、メルフィーのことでセレーネに怒鳴りつけたり、嫌味を言ってくる可能性もある。
そんな不安を抱えながら、アニエスの後ろをついて、お茶会のひらかれる場所に足を運んだ。
「お待たせしてごめんなさいね」
テーブルには、すでに他の夫人たちが席についていた。
背筋を正し、優雅にお茶を飲み、女性には珍しいショートヘアーの夫人。
少しだけ目が吊り上がり、だけど整った顔立ちをしているのがロサ夫人。
そしてその向かい側、アニエスと歳は変わらないと聞いていたが、幼い顔立ちをし、無邪気な子供のような笑顔で手を振る女性。彼女がエトワール夫人。
「紹介します。こちら、セレーネ=ルーンナイト。私の将来の娘ですわ」
「お初にお目にかかります。ロサ公爵夫人、エトワール公爵夫人。セレーネ=ルーンナイトと申します」
「まぁ、新聞で見るよりも可愛らしい。初めまして、セレーネちゃん」
立ち上がったエトワール夫人はそのままセレーネの前へとやってくる。
子供のような愛らしい笑顔。しかし次の瞬間、彼女は深々とセレーネに対して頭を下げた。
「メルフィーのこと、ごめんなさい」
「かっ、顔をおあげください、夫人!」
「いいえ。あの子が貴女にしたことは許されることじゃない。本当にごめんなさい」
正直セレーネは、メルフィーに対してなんとも思っていない。
それに、悪いのはメルフィーであってエトワール家の人間ではない。ただ、彼女が不安に抱いていたのは、家族も彼女と同じだったらということだった。だけどそれは杞憂だと思った。そもそもそんな人間であれば、アニエスが交流するはずもない。
ここにいる夫人たちは、お互いの人間性を理解している。その上で交流をしている。
「顔をあげてください夫人。夫人が謝ることではありませんし、むしろ彼女には感謝しているんです」
「えっ、メルフィーに?」
「はい。彼女が元婚約者を奪ってくれたおかげで、私はユリウス様と出会えたのですから」
セレーネが笑みを浮かべてそう言えば、隣にいるアニエスも笑みをこぼす。
その表情を目にしたエトワール夫人はもう一度短い謝罪をしたのち、改めて席に着いた。
二人も席につき、アニエスが改めて夫人二人を紹介してくださった。
「ケイシー=ロサ。魔法が得意なセレーネなら、知っているわよね」
「はい。結婚される前はとても有名な魔導士だったと。今は魔導士としての活動はされていませんが、学会に席を置き、日々新たな魔法の研究をされていると」
そして、次期王妃となるクローディアの教育を自ら行っていた人物。
淑女らしい淑女と言われており、教育は厳しいものだという噂を耳にしていた。
セレーネはケイシーを見つめる。
ピンと正された姿勢。紅茶を飲む所作はとても美しい。何より人目惹くのが髪の短さ。短髪は男のようだと忌み嫌われているが、夫人の姿を見て、一時期髪を短くすることが流行りとなったことがあったほどだ。
「……貴女のことは存じ上げてるわ。学会にいくつも論文を提出してるわね。新しい魔法についてや、既存魔法を使った新たな道具についての資料。どれも興味深いものばかりだったわ」
「ケイシー様にそう言っていただけて光栄です」
「時間があれば、今度学会に来てくれないかしら。いくつか貴女の意見を聞きたい魔法があるの」
「私でよければ是非」
「ふふっ。そして改めて、こちらはアナスタシア・エトワール。こんな見た目だけど、社交界では「絶対に怒らせてはいけない」って言われてるほど怖い人なのよ」
「アニエス様、悪意のある言い方をしないでください。セレーネちゃんが怖がったらどうするんですか」
「ふふっ、ごめんなさい。セレーネはあまり社交界に顔を出さないから、困ったことがあったら彼女を頼るといいわ」
「はい。よろしくお願いします、エトワール夫人」
「アナスタシアでいいわ。ケイシー様もいかがですか」
「構わないわ。貴女の魔法に関する才能は高く評価しているわ。かしこまる必要はない」
「……光栄です。ありがとうございます」
こうして、セレーネは公爵夫人たちのお茶会に混じり、会話を楽しんだ。
歳は当然一回り以上あるが、ケイシーと魔法の話をアナスタシアとはユリウスとの恋愛話。難しい会話のない、楽しい時間を過ごしていた。




