45話
「セドリック様。こちら、召し上がってみてください。私が作ったんです」
「メルフィーが?ありがとう、しっかり味わって食べるよ」
セレーネたちがラベンダーの資料をしている頃、メルフィーはハーストン侯爵家に入り浸っていた。使婚約者であるセドリックは毎日愛しい彼女に会えてとても喜んでいた。しかし、使用人たちは彼女が屋敷にいることに少し居心地の悪さを感じていた。
そして、元当主であるハースト侯爵も彼女の存在に暗い気持ちを抱いていた。
「メルフィー嬢。最近よく我が家に来ているが、ご実家には帰らなくていいのですか?」
「……えぇ。お父様も特に気にしていませんので」
「そ、そうですか……」
しかし侯爵は察していた。彼女が父親であるニルヴァルド・エトワールに見限られていると。
彼女が屋敷に来る頻度。エトワール家が彼女のために何かをしているところを見たことがなかった。
確かに彼女は身分はもちろん、その容姿と明るさでたくさんの人を惹きつける。だけど、それだけだった。
侯爵は嫌でも能力面について比較してしまう。元セドリックの婚約者であるセレーネ=ルーンナイトと。
「私はこれで失礼します。仕事もあるので」
「はい。お仕事頑張ってください、お父様」
「父上。俺にできることがあればなんでも言ってください!」
「あぁ……」
そう言って、侯爵はその場を後にする。
扉がゆっくりと閉まる先、仲睦まじく食事をする二人の姿。それは幸せな光景だが、彼にとっては間違った選択の結果だと顔を歪ませる。
身分ではなく、その人間の能力を見るべきだったと。もう、引き返せない過去のことをただ悔いるしかできなかった。
◇◇ ◇
食事を済ませたメルフィーは部屋でこれからのことを考えていた。
先ほどまでの妖精のような愛らしい笑顔はなく、今の彼女の目に映っているのは親友と口にし続けたセレーネの姿だった。
「それは本当なの……」
「はい。ここ最近、セレーネ様は王城によく足を運んでおります。それと、ロサ家の令嬢とも交流が……」
「お嬢には私もほとんど足を運んだことないし、クローディア様はいつも私のことなんて見向きもしないのに、なんでセレーネを……」
ガリっと爪をかみながら、込み上がる感情に苛立ちを感じる。
日に日にセレーネは幸せになっていき、逆に自分はどんどん幸せから遠ざかっていく。
彼女と自分は何が違うのか。身分も容姿も自分の方が上なのに、どうして彼女ばかりが幸せになるのか……
メルフィーの頭の中が、セレーネによって塗りつぶされていく。
「お困りのようね、可愛い妖精さん」
その時、女性の声が聞こえてメルフィーは振り返る。
彼女を庇うようにそばにいたメイドが前に出て、隠していた武器を手に擦る。
バルコニーに腰を下ろすその女性は、赤い髪を夜にたなびかせ、妖艶な笑みを浮かべてメルフィーのことを見る。
「貴女の願い。私が叶えてあげるわ」




