44話
暫くして国王が二人の部屋を訪れてお礼の言葉を口にする。
ラベンダーは現在穏やかに眠っており、専属の侍女たちが世話をしているとのことだった。
深々と頭を下げる国王にセレーネは首を横にふる。
失敗する可能性もあった。なのに、自分を信じて任せてくれたのだから、セレーネ自身が逆にお礼を言いたいとのことだった。
とはいえ、セレーネは国王にとっては命の恩人。呪いはもちろん、彼女の目も見えるように治療をしてくれた。
彼女にはその働きに見合った何かを与えるべきだと。そう思った国王はふとあることを思い出し、ユリウスに視線を向けた。
「そういえばユリウス。公爵家を継ぐ気はないとリュシュリシュに言ったそうだな」
「……はい」
「人の姿に戻ったのだ。確かに長年蛇の姿でいたことで色々とブランクはあるだろうが、お前は元々優秀な人間だ。これから学べ直せば問題はないはずだ」
「確かに父上もそう言ってくれました。しかし、それではルキウスの努力を無碍にしてしまう」
正直ユリウスは、ずっと自分は蛇の姿で一生を終えると思っていた。それは家族も同じだ。だからこそ後継としてルキウスがしっかりと教育を受けていた。なのに、急にユリウスの呪いが解けて、人に戻ったからという理由でルキウスを突き放すのはあまりにも残酷すぎることだ。
「ルキウスもお前が当主になるべきだと言ったのではないか」
「えぇ。でも僕はルキウスこそが後を継ぐべきだと思います」
これ以上言っても答えは同じだろと思って国王は深々とため息をこぼし、二人に聞こえない声で「父親にそっくりだな」と口にし、一度咳払いをし「わかった」と口にした。
「とはいえ、二人の功績を考えれば、なにも与えないというのは私としても気が引ける。だから一つ提案をさせてくれ」
「提案、ですか?」
「あぁ。お前たち二人が結婚した際に、新しく公爵の爵位を与える」
「私たち二人に、ですか?」
その提案に、セレーネは目を丸くする。
ただ隣のユリウスは声を荒げる。セレーネだけならともかく、自分はそれをもらうに値する功績を上げていないと。
しかし国王は、首を横にふる。ユリウスはそれを受け取るに相応しい功績をした。
それは……
「お前は、アルヴィスの呪いを肩代わりした。これ以上に私にとって素晴らしい功績はない。いや、これは私のせめともの罪滅ぼしだな……我が子可愛さに、お前の幸せを奪ってしまったことへの」
苦しげな表情をする国王は、深々と頭を下げる。ユリウスは自分がやりたくてやっただけというが、やった人間とやられた人間では受け取り方が当然違う。それは、ユリウス自身も知っていることだった。
「……爵位については、少しお時間をいただきます。父にも話をしたいので」
「もちろんだ。他に何か私たちでやれることがあれば気軽に言ってくれ。ルーンナイト嬢の貸しもあるしな」
その後は、国王は仕事のため部屋を出ていく。本当なら見送りをしたいところだが、アヴィスが代わりに二人の見送りをした。
「セレーネ、いつでも実家に帰ってこいよ」
「はい、お兄様」
「ユリウス、今回は本当にありがとう」
「お礼は僕じゃなくて、セレーネに言ってくれ」
そして二人は、移動魔法でそのままその場を後にした。




