43話
「かはっ!」
セレーネの意識は現実に戻ってきた。
激しい動悸に襲われ、必死に呼吸をする。
彼女のそばに駆け寄ったユリウスは、すぐに彼女の背を撫でてあげる。
「っ!ラベンダー様は!」
すぐに自分のやっていたことを思い出すと、横たわるラベンダーに眼を向ける。
顔色も良く、肌も健康そのもの。浅い呼吸をしながら、彼女は穏やかな顔で眠りについていた。
「………はぁ……よかったぁ」
体の力が一気に抜け、セレーネはその場に座り込む。
気持ちを落ち着かせて、セレーネはゆっくりと目の宝石を自身の魔法で隠した。
再び眼を開けた時、彼女の瞳からは宝石のような輝きは無くなっていた。
「ルーンナイト嬢……ラベンダーは……」
ユリウスに手を借りながら立ち上がり、セレーネは今一度ラベンダーの手を握って体内を調べる。
魔力を身体中に巡らせ、ドラゴンの痕跡がないかを探る。
「……大丈夫です。古龍の魔力は全くありません。正常です」
「……そうか……そうか……」
国王もホッと、体から一気に力が抜け、その場に崩れるように座り込む。
ボロボロと涙を流し、歓喜にむせていた。
その様子を見た後、セレーネはもう一度一息をつき、ユリウスに寄りかかる。
「お疲れ様、レーネ」
「……よかったです」
無事に呪いも解け、国王はラベンダーのそばに。
セレーネとユリウス。アルヴィスは先に宮殿を後にした。
少し力を使いすぎたのか、セレーネの足取りはおぼつかず、二人は彼女に合わせてゆっくりと歩いた。
「セレーネ嬢、改めて今回は感謝する」
「いえ、そんなことは」
「いいや。君は自身の危険も顧みずに叔母上の治療をしてくれた。感謝の気持ちでいっぱいだ。父上にも進言するが、我々王族は、全力で君のことを守ろう。君は大事な家族の恩人なのだから」
「……ありがとうございます」
「とりあえず、今は休んでくれ。部屋を準備させるからゆっくりしてくれ」
そう言われ、アルヴィスが用意した部屋でセレーネとユリウスはくつろいだ。
後で国王が改めてお礼をしにくると言われ、それまでは部屋でのんびりと過ごすことに。
バルコニーに椅子を運び、そこに腰を下ろしたセレーネは全身に風を浴びる。
魔法の使用で熱くなった体には心地いい風だった。
「やっぱりセレーネはすごいね」
「え?何がですか?」
「ん?セレーネは、どんなに自分に危険が訪れるとわかっても、助けたいって気持ちを優先する」
「……ユリウス様もではないですか」
「そうなんだけど……でも、そうじゃないんだ。僕も、一回だけ後悔したんだよ。自分の性格に」
ユリウスは椅子に腰掛けるセレーネを後ろから抱きしめ、肩口に顔を埋める。
魔女の呪いに落ちそうになった時、彼は自身の行いを後悔した。友人のためにと受けた呪い。そのせいで、愛した人を傷つけようとした。もしあの時、断っていれば、彼女はこんなことにはならなかったのに。そんな後悔が、さらに魔女の呪いに落ちつきかけとなった。
「だから、セレーネはすごい」
「……私だって毎日後悔です。こうしてればこういう結果になったかもしれない。人生なんて、思い通りになりませんよ。それに、ユリ様のその行動のおかげで、私たちは出会えたのですから」
「セレーネ……」
彼女の言葉が嬉しくて、ユリウスの胸がギュッと苦しくなる。
昂る愛情を彼女に伝えたくて、ユリウスはセレーネに口づけをしようとした。
「セレーネ!無事か!!」
そんな甘い空気をぶち壊すように、扉が勢いよく開き、兄であるサイラスが部屋にやってきた。
「あ、お兄様」
「聞いたぞ!お前……って、どうしたユリウス」
「サイラス、ちょっと外で話そうか」
「え?ちょっ、おい!なんでそんなに怒ってんだよ!」
「うるさい。いい雰囲気だったのに!」
ばたりと扉閉じ、一人部屋に残ったセレーネ。
もう一度風を浴びながらぼんやりと空を見上げる。
あの不思議な場所でのことは記憶に残っている。
セレーネでも知らなかった事実。おそらく、一般的に公開されてない事実だろう。
ただセレーネはなんとなく理解した。神殿がなぜ宝石眼を神聖視するのか。それは、その目に神の力が宿ってる。つまり、彼らは宝石眼保有者を幼い神と認識していることになる。
「はぁ……面倒ごとはやだなぁ………」




